PRAY(完結編)


僕は抱きしめられるたび苦しい。あなたのためだと思うんだけど、
もしかしたら、僕と同じ気持ちで僕を抱きしめてるんじゃないだろうか。
なんて、醜い欲望が頭をもたげてくる。
でも、あなたを拒むことなんてできない。
銀さんの悪夢はだんだんと減ってるようだけど、それでもたまにどうしようもなく
苦しい顔で、僕を抱きしめてくる。
そんなに苦しい顔した銀さんを拒むすべを僕は知らない。
どんな形であれ、僕を求めてくれるんであれば、僕はあなたのためになることを
しようと思った。
「銀さん、買い物行きませんか」
今日は、卵が安いんです。一人1パックなんです。銀さんがついてきてくれると
うれしいなぁ、と銀さんを誘った。
もう一つ思惑はあって、買い物ではあるけれど、外の空気を吸えば
ぐっすり眠れるだろうと、悪夢を見なくてすむんじゃないかと。
でも、逆にそれは悪夢の入り口になってしまった。

卵をいっぱい安く手に入れて、今日はオムレツでもしましょうか、なんて僕と銀さんは
話をしていた。そこに、天人が現れた。
「白夜叉、仲間をやられた恨み今日こそ晴らしてくれる」
なんだか、攘夷志士のような天人だった。何よりも、銀さんを白夜叉だとわかるだけ
すごいなぁ、と思った。僕は、あまりのことに唖然としてしまったのだ。
それが良くなかった。彼らの狙いは僕だったのだ。
仲間をやられる、同じ苦しみを銀さんに与えたかったのだ。
僕は、そこに気づけなかった。気がついたときには、僕には刀が生えていた。
正確に言うと刺されたのだろう。
何の感覚もなかった。ただ、視界が揺らいだ。
天人は、僕を刺すと逃げていった。銀さんは追うことをせずに僕を抱えて、病院へ走った。

新八が刺された。俺は、天人をやるよりも新八を助けたくて、あいつを抱えて、病院へ走った。
幸い、刀が刺さったままだったので、出血はそこまでひどくなかった。
でも、新八は目を覚まさなかった。ずっとずっと目を覚まさなかった。
お妙は俺に殺したいくらいの憎しみをたたえた顔で、
「新ちゃんがこのまま動かないなら、あなたの命をもって償ってもらいます。あなたが嫌でも私があなたを殺します。」
と、言い残して、俺の前から姿を消した。
神楽は、お妙を心配して、お妙の所に行ったきり今日も戻ってこない。
病院に来るなとは言われていない。むしろ、あいつの入院費を稼ぐためお妙は精一杯だ。
神楽は、それを見て、新八の世話は銀ちゃんにやらしてあげてと、懇願してくれたらしい。
だから、俺は新八につきっきりでいられた。
「坂田さん。寝てますか。このままでは、彼が目覚める前にあなたが死んでしまいます」
医者は、俺の顔を見てそういった。
「新八が目覚めるまで俺は死ねねぇよ」
はいはい・・・、と呆れ顔で医者は出て行った。
新八には俺の気持ち、何一つ話してないのに。
こんなことなら、墓場まで持っていく秘密とか思わずに言っておくんだった。
俺は、また仲間一人、愛する人一人守れずに、自分だけ生きてしまうのか。
いっそのこと、こいつを殺して俺も・・・。
最低な想いが頭をよぎり、そのたびに、こんなことで弱くなる自分が嫌になる。
「新八・・・。いい加減起きやがれ。」
ぴくりともしない、あいつの手を握ると情けない顔で悪態をついた。

ここは、どこ・・・だろう。
天人に刺された後なんだか知らないけど暗闇をさまよってる。
ちょっと前に暗闇にいたときには神楽ちゃんも銀さんもいたのに。
銀さん・・・、また、悪夢に魘されてないだろうか。
ちゃんと一人で起きれてるのかな、糖分取りすぎてないかな。
神楽ちゃんに食事作ってるのかな。万事屋は大丈夫かな。
姉上に心配かけてるんだろうな。
いろいろなことを思うのに、一向に出口は見えてこない。
このまま僕死んじゃうのかな。
こんなことなら、銀さんに告白の一つでもしておけばよかったな。
隠していないで、堂々と好きだといっていればよかったな。
なんだか、それが一番の後悔って言うのもどうなんだろう。
銀さんのことを考えたらちょっとだけ元気が出てきた。
そうだ、あの人のせいで、こんなことになってるんだ。
早く、銀さんの元に行って、蹴りの1発や2発お見舞いして。
それから、銀さんを抱きしめて、好きですって言ってやろう。
好きだから、ずっと万事屋で雇ってくださいって言ってやろう。
なんてことを考えていたら、なんとなく笑顔になった。

ぴくり、動いた指に銀時は跳ね上がった。
新八の顔を見ると、かすかに笑っていた。
「しん・・・ぱち?」
だからといって、返事は返らない。でも、表情が今までと明らかに違った。
もしかしたら、もう少しで新八は戻ってくるんじゃないか。
俺の声は届くんだろうか。俺の声は道しるべになるんだろうか。
そう思うと、銀時は、新八の耳元で
「新八、早く帰って来い。銀さんお前がいないからまた、魘されてるよ。」
と、囁いた。
「新八、銀さんがいっそうダルダル銀さんになってるよ。お前がいないともう、何もできないよ」
そして、深呼吸をすると、
「新八、黙っててごめん。お前が好きだよ。誰よりも好きだよ。男同士かもしれないけど、俺はお前を愛しているんだ。お願いだから、もう一度銀さんって呼んで笑ってくれよ。」
新八の右手をありったけの力で握ると、精一杯の祈りとともに呼びかけた。

「うわっ」
急に、暗闇の中に一筋の光が現れた。
「新八・・・」誰よりも聞きたかった声がする。僕の名前を呼んでいる。
僕の名前の後も何か言ってるけど、その後は聞こえない。
でも、何回も何回も僕のことを呼んでいる。
この光をたどって、行き着く先が天国だろうと地獄だろうと全然別の世界だろうとそこには
銀さんが両手を広げて待っている気がした。
「銀さん、今戻りますからね。情けない顔してたら承知しませんよ。」
男前で待っててくださいよ、というと、ふふっと笑って走り出した。

「ぎ、んさん・・・」
「新八!!」
確かに、今確かに俺の名を呼んだ。俺のことを呼んでくれたよ。
「新八!!新八!!銀さんここにいるぞ!!」
聞こえてるのか?!この想いは届いてるのか。
わからないけど、あるいはひょっとしたら・・・。
「新八!!新八!!・・・」この声が届くなら、金輪際声が出なくなってもいい。
この声と引き換えに新八が戻ってくるなら、安いもんだ。
ただただ一心に祈った。

光のほうへ走って、まばゆい光に包まれたと思ったら、見慣れない天井が見えた。
ここはどこだろう、ふと、横を見ると、僕の手を握ってうなだれてる銀髪があった。
「ぎんさん」無意識に、僕は銀さんの名を呼んだ。
銀さんは、すごい勢いで顔を上げた。思ったとおりの情けない顔をしていた。
「しんぱち・・・」よく見ると銀さんの顔は憔悴しきっていた。
僕が、こんな顔をさせてしまったのか、と思うとその顔もいとしく思えた。
「新八・・・愛してるよ、新八」もうどこにも行かないでくれ。
そういうと、銀さんは、僕をきつくきつく抱きしめた。
僕が意識を取り戻して、第一声が愛してるですか。どれだけ熱烈歓迎なのさ。
そう思うと、なんだかおかしくて、くすくす笑った。
「??」銀さんは何がなんだかって顔をしている。
そりゃそうだろう、銀さんの告白に対して、僕は笑ってるんだもん。
「僕も、愛してますよ、銀さん。誰よりも誰よりも」
あんたが素直に告白してくるから、僕も素直になってしまうじゃないですか。
「しん・・・ぱち?」
僕の一世一代の告白は、疑問形で返すんですか。
「言葉のとおりですよ」僕も、あんたと同じ気持ちです。
と、告げると、ちょっと眩暈がした。
悪い、と銀さんは言うと、僕はまたベットに寝かされた。
「僕、どれだけ寝ていたんですか。」
「1週間、だよ。」
あれから1週間も過ぎたのか。せっかくいっぱい卵買ったのに、もったいなかったなぁ。
「新八、ごめん。俺はお前を守れなかった。絶対にお前を守るって言ったのに」
「銀さん・・・」
「お前がいない1週間は、悪夢でしかなかった。お前がいたから、日々は楽しかった。」
銀さんは、僕の手を握り締めて、
「どこにも行かないでくれ、新八。ともに生きて、ともに死のう。俺を置いて行かないでくれ。」
と、懇願した。きっと彼は先の戦争で、仲間の死を目の当たりにしている。置いて行かれたと思ってるんだ。
「銀さんとなら、どこにでもいける気がするし。どこでも笑ってられそうですね。」
と、僕は笑った。
「あのね銀さん」
僕は、顔だけ銀さんのほうに向けると、
「きっと、生きてゆく力をあなたの手から、もらったんだと思うんです」
銀さんは、わからないといった顔で僕を見つめた。
「僕は暗闇の中をさまよっていたんです。そうしたら、急に一筋の光が見えたんです。きっと、銀さんに手を握ってもらっていたから
じゃないかと思うんです」
銀さんは、黙って僕の話を聞いている。
「そうしたら、銀さんのことをあれこれ考えちゃったんです。きっと情けない顔してるんだろうなぁ。とか、神楽ちゃんに料理してるかなとか。」
そうしたら、と僕は続けた。
「なんだか、楽しくなってきて、面白くなってきて、顔がほころんだんです。そして、そばにいたくなったんです。無性にあなたのそばにいたくなったんです」
「新八・・・」
「その光の筋をたどってこれたから、僕は戻ってこれた。銀さんのおかげです。僕はあなたに守られているんですよ。」
いつもいつも惜しみない愛とともに
「僕を求めてくれて、僕はあなたのためにできることならどんなことでもしたいんです。」
たとえどんなにだめ人間でも、
「そのために怒ることも暴力に訴えることがあるかもしれなくても」
あなたのためを思えば、僕はなんにでもなろう。あなたのそばで、生きていこう。
「最後にはきっと笑って、あなたを受け入れてしまうんだと思うんです。」
性別とか年齢とか過去とかそんなものは関係ないのかもしれない。
「あなたが嫌だといっても、世間に白い目で見られようと。僕はあなたを愛しているんです」
だから、僕は戻ってきた。あなたと一緒にいる未来のために
「ずっと雇ってくださいね。僕を。ともに生きて、ともに死ぬ日まで。辞めろって言われても僕は聞きませんから。」
「辞めろなんて、言うわけねぇだろ。辞表持ってきても俺から逃げても俺はお前を離さないからな。」
「離さないでください」
「もちろんだ。」
真剣な顔で、言い合うと、二人で笑った。

あの後、姉上と神楽ちゃんも来た。二人とも泣いて喜んでくれた。
姉上に、金銭的な面でもずいぶん苦労させてしまったから、退院したら稼ぐだけ稼いで姉上を休ませないといけないと思った。
そのためにも、あの銀髪天パにまずは働いてもらわないとなぁ。
なんてことを、天井を見つめて、考えていたら。
「新八」と銀さんが僕のことを呼んだ。
「俺、まじめに生きるよ。仕事もする。だから、愛想つかして、出て行くなんて事しないでくれよ」
と、僕に、まじめな顔で、言った。
僕は、面白くて、つい爆笑してしまった。
「ええっ!!そこ爆笑するとこぉぉぉぉ」
いえいえ、と僕は言うと
「なんだか、さっき告白したばかりなのに。プロポーズみたいになってるのが面白くて。」
「俺はいつだって、新ちゃんとの輝かしい未来を夢見ていたからな。」
どこまでも、マダオな人だ。でも、そこが愛しいんだろう。重たすぎる過去を抱えて、今いる現実の問題を抱えて、
それでも、自分を貫き通して、マダオだなんだと言われながら、そのことを少しも出さずに生きてゆける。
そういうところにも惹かれているんだろうなぁ。
「僕は、真面目でもマダオでもどんな銀さんでも、そばにいますよ。
僕が好きなのは、坂田銀時と言う人間なんですから。」
僕だって、銀さんとの明るい未来を何度夢見て、ため息をついたことか。
でも、と僕は続けると
「万事屋の明るい未来のためには確かにもう少し働かないとだめかもしれないですね」
と言って、銀さんと笑った。

結局僕は2週間入院するだけですんだ。
戻ると、万事屋は荒れていて、退院したばかりの僕は二人に説教する所から
万事屋復帰が始まってしまった。
「だって、毎日仕事してたし・・・」
「そうかもしれないですが、少し片付ければすむ話でしょ」
「新八がいつもやってくれたからどうしていいかわからなかったし」
「はいはい」もういいですよ。
と、僕は諦めた。
「まったく、銀さんは僕がついてないとだめなんですから」
と言うと、笑みがこぼれてしまった。
「新八、銀さん新八がいないとだめなんだ。だから、銀さんのお嫁さんになって」
銀さんも笑っていった
「新八、銀ちゃんのお嫁さんアルか?そうしたら3人でここですめばいいネ。」
神楽ちゃんも笑っていった。
あぁ、戻ってきたと思った。
「そろそろ、行かないと仕事遅れるな」
「あ、お弁当作ったんで持っていってください」
二人は喜んでもって行ってくれた。
「今日は、料理作って待っててね、新ちゃん」
「銀さんたちの好きなもの作って待ってますから、がんばってくださいね。」
僕は笑って、二人を見送った。
少しすると銀さんだけが戻ってきた。
「忘れ物ですか?」
「ああ、新八ちょっと」
僕が駆け寄ると、僕をぐいっとつかみ、キスをした。
「行ってきますのチュウ忘れた」
じゃあ、家事よろしくな、と言うと、銀さんは出かけていってしまった。
「・・・どこのバカップルだよ」
と、悪態をつきながら、僕の顔はほころんでいた。

きっと、これから、新しい日々が始まる。
あの頃の悪夢も何もかも、新しい日々に喜びにきっと包まれてゆく。
新たな幕開けを僕は感じた。


共に生きて共に死ぬまで、というフレーズ結構気に入ってます。
プロポーズに近いなぁ・・・。
まぁ、江戸時代衆道は珍しくなかったですからねぇ。
近藤勇が新撰組の悪しき事として、気に病んでいたくらいですから。
まぁ、いい終わり方になってよかった。
意外と、銀新も好きだと自覚する今日この頃。
                                   080316

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