Pray(銀時編)


悪夢なんて、何ともなかった。
寝ても醒めても悪夢ばかり。
毎日なんて、そんなもの。
何で生きている?自問した所で答えなんか出てこない。
でも、死ぬこともできなかった。
「あの」戦争を生き残った自分たちに自らを殺すことはできない。
でも、これでは生きながら死んだも同然。
そんな毎日だった。いつ死んでも良かった。
悪夢の中では、俺は何度でも死んでいるのに・・・。

そんなある日俺の所に一人の少年がやってきた。名を志村新八とかいった。
本当に偶然出会った鈍くさい少年。
俺に何を見たかなんてわからないが、俺の所に万事屋で働かせてほしいと願い出てきた。
どうせ、すぐやめるだろうと思って、俺は了解した。

俺の考えとは裏腹に、そいつはしぶとく毎日毎日万事屋へ通っては
俺に注意までし始めた。
俺の超人的な力も攘夷戦争のことも白夜叉のこともすべてとは言わないが、
少し耳に入ったはずなのに、俺の元を離れずに相変わらず健康管理とか
仕事を取ってこないとか、口うるさく注意して、怒ってきた。
そして、時には俺のために心配して、俺のために涙を流した。
家族と思ってくれていい、と、泣きながらあいつは俺に言った。

どうして?どうしてあいつは俺にそこまで感情を向けられる?
同じ人間でありながら、違う生き物のように思えてくる。
そして、あいつにそういうことをされると、面倒くさい以外の感情が出てくるのは
どうして?

そう考えていた頃から、悪夢の内容が変わってきた。
俺は、動けない。その目の前で、仲間が新八をなぶり殺しにしたり、
輪姦されて気が狂ったあいつが自らを殺すようになっていった。
共通するのは、どの悪夢も最後に
「銀さん・・・、愛してる・・・、銀さん」と言って息絶えることだった。
その度に、俺は嫌な汗を流して、飛び起きる。
そして、部屋の中に新八の姿を探す。
昼間はまだいいんだが、夜そんな夢を見ちまったら、怖くてたまらない。
明日、あいつはここに来るんだろうか。もしかしたら本当に・・・。
そう思うと、ろくに眠れずに朝を迎えることも何度もあった。

しかし、だ。どうして、悪夢の内容がかわった?
どうして、目の前で息絶えるあいつをほおっておけない?
どうして、あいつの「愛してる」の一言がこんなに苦しい?
どうして、俺はその悪夢に恐怖を覚える?
俺は、あいつを・・・愛してる・・・のか?
そんなこと、あってたまるか。俺は男で、あいつも男だ。
あどけない少年だが、どこをどう見ても男性だろう。
それでも・・・、俺は気づいてしまった。
その気持ちから、目をそらすことができなかった。
いや、むしろ、そう考えるとすべてのことにつじつまが合う。
無意識の気持ちは夢に出る、と聞いた気がする。そうだとしたら・・・。
「マジでカ・・・」
決してかなうことのない想い。
神様、これはどういうことだよ。
生きながらえたのに死んだような暮らしをしていた、俺に対する罰なのか。
生きていくうえでの試練なのか。

そんなある夜、依頼が長引いて、あいつは泊まった。
あいつが泊まるときは、俺の横に布団を敷いて寝る。
俺は、いつもの悪夢がまとわりついてくる。
飛び起きると、あいつは起きていた。
「銀さん」
よかった、あいつは生きて俺のそばにいてくれている。
「しん・・・ぱち・・・」
俺は、力の限りかき抱くと
「新八、俺は絶対お前を守るから。俺はお前を裏切らない。だから・・・だから・・・」
傍にいてくれ、俺を一人にしないでくれ・・・。懇願するように、新八に呟いた。
するとあいつは俺の背中に腕を回し、あやす様に撫でながら
「大丈夫ですよ。銀さん。ずっと傍にいますから。一人にしませんから。ずっとずっと雇ってくださいね。」
僕は絶対に離れませんからと、新八は耳元で優しく呟いた。
その日は、新八を抱きしめて眠りについた。

それ以来、悪夢は減った。夢も見ずに眠れるようになった。
それでも、悪夢を見て飛び起きた後は、あいつを求めた。
「また、魘されたら抱きしめてもいいか」と俺はあのときに聞いた。
あいつは、にっこりと微笑んで
「僕でいいならいいですよ」と、了解してくれた。
あいつを抱きしめていると、不安な気持ちが和らいでいった。
どうせ、あいつは安定剤代わりに自分を求めている、とでも思っているんだろう。
俺が今もっている気持ちをあいつにぶつけたら、あいつはどんな顔をするんだろう。
いや、その前に会ってくれるんだろうか・・・、無理、だろうな。
やっぱりこれは罰なんだろう。
あの戦争を生き残り、それなのに死んだような生き方をしている俺への罰。
この想いは墓場まで持っていく秘密。
この、苦しい想いの中で生きていく、それが俺の贖罪。


銀時編。二人の思いが平行線をたどってラスト、という形にしたかったのですが、
とにかく、銀時編なかなか最後までうまくいかなかった。
これは、ほとんど帰りに考えました。
バスの中で一心不乱に書き付けました。バス酔いしなくてよかった。
こちらの色は金茶と銀鼠です。銀とつくのは一つしかありませんでした。残念・・・。
                                          080316

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