PRAY(新八編)


まただ。
最近銀さんはよく魘されて、そして飛び起きる。そいつの頃からかその後僕を探しているかのように辺りを見回して
僕を見つけると、安堵した顔をした。
僕はいつもいつも見て見ぬ振りをした。
だって、その悪夢には銀さんの昔が絡んでいそうだから。
昔のことは極力話したがらない銀さん。僕は別に昔の銀さんがどうであろうとかまわないけれど、
銀さんが嫌ならば僕は特に話してくれなくてもいいと思った。
でも、あの時だけは・・・。

久しぶりの依頼の終わりが遅くなって僕は万事屋に泊めてもらった。
夜中目が覚めると、銀さんはいつものように魘されていた。
僕は心配しながら、汗で張り付いた前髪を掻き分けて、汗を拭った。
なんて、なんて苦しい顔をしているんだろう。魘される声はいつも聞いていたのだけれど、
まさかこんなに苦しい顔をしていたなんて・・・。
「やめろっ!!」
そう思って見つめていたら、銀さんが飛び起きてきた。
ハアハア息をしている銀さんに僕は無意識に声をかけてしまった。
「銀さん」
思わず降って来た声に弾かれた様に顔を上げて僕を見た。
「しん・・・ぱち・・・」
苦しいような切ないようなやりきれない様な顔で僕を見た。
「しんぱち・・・しんぱち・・・しんぱち・・・」
うわごとのように呟きながら僕を強く強く抱きしめた。
「新八、俺は絶対お前を守るから。俺はお前を裏切らない。だから・・・だから・・・」
傍にいてくれ、俺を一人にしないでくれ・・・。呟く声は不安に包まれていた。初めて銀さんのそんな声を聞いた。
僕は銀さんの背中に腕を回し、あやす様に撫でながら
「大丈夫ですよ。銀さん。ずっと傍にいますから。一人にしませんから。ずっとずっと雇ってくださいね。」
僕は絶対に離れませんからと、耳元で優しく呟いた。
少し、落ち着いてきたのか、銀さんはいつもの銀さんのようになっていった。
「いつから・・・起きてた」
「魘されているところから。ずっとあなたの魘されている声を聞いていました。ずっとずっと」
ごめんなさい、と僕の口をついた。
「謝るな」
銀さんはこの謝罪の意味がわかっているのかもしれない。
「悪夢を見るのはいつものことだ。魘されるのは最近の話だけど。気にするな。」
今度は、銀さんが僕の頭をぽんぽんと撫でた。
「でも・・・でも・・・あんなに苦しい顔した銀さん・・・。助けられなくてごめんなさい・・・。」
気付いてたのに・・・、ずっと気付いてたのに・・・。僕は自分が不甲斐なくて涙が出てきた。
「いいんだ。お前がここにいるだけで俺は・・・」
「銀さん・・・。」
そういうと、銀さんはまた僕に抱きついてきた。さっきみたいに不安に押しつぶされて縋る様に抱きつかれるのとは違う、
まるで壊れ物を扱っているような優しい抱きしめ方だった。
「一つだけ・・・、一つだけ、甘えてもいいか・・・。」
というと、耳元で願い事をためらいながら言い出した。
僕は、微笑むと
「いいですよ。僕でいいなら、いつでも」
と、銀さんを優しく抱きしめた。
その日は銀さんの布団で銀さんに抱きしめられながら一緒に眠った。

それから銀さんの悪夢はそこまで頻繁でもなくなったようだ。
魘される声をあまり聞かなくなった。
そして、魘されて飛び起きて僕を見つけると「しん・・・ぱち」と僕を求めてくるようになった。
神楽ちゃんがいるときは我慢しているようだが、神楽ちゃんがいないときは僕を抱きしめてくるようになった。
「銀さん。・・・大丈夫、僕はここにいますから」
僕は銀さんの背中に腕を回して、僕も銀さんを抱きしめた。
あの時、僕の耳元で銀さんは、
『また、魘されたら抱きしめてもいいか』
というものだった。僕も嫌じゃなかったから、受け入れた。
悪夢を癒す術でもかまわない、僕を求めてくれるなら。あなたの涙に触れれるなら、信じてくれるなら。
誰からもあまり求められることがなかった僕を、こんなにも求めてくれるのが嬉しかった。
そうしているうちにだんだん別の感情も芽生えてしまった。
もしかしたら、僕は銀さんのことが・・・好き?
純粋に僕だけが知っている銀さんの弱さを見て護りたいと思った。
僕よりも何十倍も強いのに、それでも僕が銀さんを護ろうと思った。
そして、強くて弱い銀さんを愛しいと思ってしまった。
この感情はばれてはいけない、だって、銀さんも僕も男だし年だって10くらい離れている。
ばれてしまったら銀さんは僕を拒むだろう、気持ち悪い目で見てくるだろう。
僕だって、信じられないくらいで何回も家族に対する愛情だと頭で強く思った。
でも、本能はそうは言ってはくれなかった。頭で考えてても心はだませない。僕は銀さんに恋をしている。愛している。
もしかしたら、ひょっとしたら銀さんは受け入れてくれるかもしれない。そうも考えるが、すぐに首を振る。
きっと受け入れたとしても、哀れみの情からでしかないだろう、それでも彼は優しいから受け入れてしまうだろう。
そんな、惨めな受け入れられ方をするくらいなら最初から僕の胸のうちにとどめておくだけでいいんだ。
小さな奇跡も期待してしまったら悲しくなるから。
「・・・しんぱち」
ああ、そんな悲しい切ない弱い声で僕を呼ばないで。僕は笑顔であなたに手を広げてしまうから。
あなたの弱さの前で僕は無力になってしまう。
こんなにあなたを想っているのに何食わぬ顔して、あなたに接しなければならない。
胸が高鳴っても、痛んでも、僕がこの人を救えるならば僕はこのままこの人のそばでこの人を受け入れてしまう。
これは、僕の使命で僕の贖罪。
あなたのそばで、あなたを愛してしまった僕の償い。
本当の気持ちを闇に閉じ込めて、僕は使命と欲望に悩まされて、この罪に蝕まれながら、あなたを救おう。


書いているうちに、初代OPの歌詞と似てきたので、そのままタイトルにしました。
結果的に全然似てもなかったのですが・・・。
しかも、去年から書いていたのにすっかり暖めすぎてしまいました。
とにかく、まとまってよかったです。
文字色と背景色は色の頭が「しん」です。真紅と新橋色だそうです。
                                           080316

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