痛みの共有

「あ、隊長。もう戻られたんですね。お早いお帰りでした。」
「おう、山崎かィ」
そこには笑顔の山崎がいた。
「明日から通常通りいこうかと思いましてねぃ」
「そうですか」あそうだ、と山崎が話を続ける
「チャイナさんが訪ねて来ましたよ。最近あってないけどサドのくせに風邪でも引いたかって。」
「で、お前はなんていったんでぃ」
「身内の方が亡くなってしまったから、田舎に帰ってるっていいましたけど」
素直に言うのになぜか気が引けていた。
「そうしたら、戻ったらいつもの場所に来いって伝えろって言ってそれきりでしたね。」
「わかった」
短く返事をすると、隊服に着替えていつもの場所に向かう。
いつものように、酢昆布かじって傘を差してベンチに座っていた。
「相変わらず変なもん食ってんですねぃ」
声をかけると、傘がゆれた、ゆっくりかさが持ち上がると神楽の心配そうな顔が出てきた。
「馬鹿サド!!」一言だけ怒鳴られるとそっぽを向いて酢昆布をかじりだした。
「何をそんなにご機嫌斜めなんでぃ」
何も言わずに酢昆布のかじる音だけが聞こえた。
「おいっ、いい加減に・・・」無理やり振り向かすと、あいつは泣いていた。大きな瞳からぽろぽろ落ちる涙は綺麗だった。
「・・・どうして」不意に神楽はつぶやいた。何?と返すと、あいつは俺をまっすぐ見つめて
「悲しいなら悲しいって言えばいいアル」
「何のことでぃ」
「どうしてワタシに何も言わずに田舎に帰ったネ。どうして身内が死んだこと言ってくれなかったネ。」
少しの沈黙の後、俺は答えを告げた
「神楽、言わなかったんじゃねぇ、言えなかったんでさ」
現実に直面したばかり、自分の口からいまだにその言葉は出てこない。出せないのだ。
一瞬はっとした顔になったのに、また、涙をこぼして、
「ごめん。」と短く言った、そしてまた沈黙。
あいつは、傘を閉じると、俺の頭を抱き寄せた。
「私のマミーは小さい時に死んでしまったネ。身内がいなくなること、同じ経験をしている者通しわかる筈だろ。」
とだけ言うと、俺の頭をギュウと抱きしめた。
こいつは、生きてる、今俺の横で生きてる。トクトクと心音が聞こえる。
「身内が死んで悲しまないのは嘘アル。誰だって、大事な人が死んだら泣き叫ぶくらいなことはするアル」
お前は・・・と神楽は続ける。
「サドだから、自分の気持ちの表現がへたくそなんだろ。泣きたくても意地張ったんだろ。」
「姉上との約束だから。最後に、泣いたりしてはだめだと。」
そういいながらも、目頭が熱くなるのはわかっていた。
「今なら、ここなら誰も見てないアル。お前のねーちゃんだってわかってくれるアル」
頭にポツリポツリと水があたる、あいつの涙だろう。
「あたしもこれなら見えないアル。泣いてすっきりしたほうが引きずらないネ」
武州で泣きつくしてつもりだった、もう大丈夫と思ったはずだった。でも涙は知らない間に溢れて来て
いつの間にか、神楽にすがるように泣いていた。あいつは優しく俺の頭を撫でていてそれ以上何もしなかった。
だいぶ落ち着くと、俺は神楽から離れ目を逸らした。
「落ち着いたカ」
「だいぶねぃ」
短く話をする。それだけで十分だった。
「なにかあったら、一人で背負い込むなヨ。ここに・・・その・・・」
急に、どもりだしたあいつにどうした?と声をかけると
「ここに、心配するやつがいるってこと、忘れんなよ。馬鹿サド」神楽の顔が赤いのは夕焼けのせいにしてやろう。
「そうですかぃ。でも俺は馬鹿だから毎回言ってもらわないと忘れるかもねぃ」
「何回でも何十回でもここで叫んでやるよ。どこにいてもお前に届くように」
あいつを後ろからやさしく抱きしめると、その耳元で
「ありがとう、神楽」と囁くとそっと離した。
「ふん、工場長様は懐が深いアル」
「今日はもう遅い。万事屋まで送っていってやらぁ」
「マジでカ?!」
「ああ」
二人で公園を後にした、長い影が伸びる。
姉上にも見せたかった、こいつの姿を。きっと、あなたの義妹になりますよ。じゃじゃ馬なお姫様なんだけどね。
『いい娘さんじゃないの。大事にしなさいよ。そーちゃん』
どこかで姉うえの声が聞こえた気がした。
「姉上!!」
「どうしたアルか」
「いや・・・、今姉上の声がした気がして」
「そうあるか。じゃあきっと近くにいてくれてるアルよ」
「そーですねぃ」
夕日に伸びた影の先に姉上の笑顔があるような気がした。


どうしてもどうしても沖田さんの話には神楽ちゃん絡んで欲しいんですよねぇ。
何ででしょうね。でも、やっぱり二人はお互いを大事に思ってるんじゃないかと、
柳生編を見てしまった今だと本当に思います。
憎まれ口ではあったけど、助けに入った所とか最初見たときついニヤニヤ・・・。
でも、よかったですよ、柳生編。このおかげで、この話書いたような。
というか、沖田さんと神楽ちゃんはとか思ってしまう自分がいたりします。   1/5

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