姉上がいなくなった。地上のどこにもいなくなった。
姉上は俺の自慢だった。どこに出しても恥ずかしくない自慢の姉だった。
神様は我儘だ。そんな大事な姉上を俺から攫って行った。
最後に、「自慢の弟」という一言を残して。
近藤さんは俺に家の整理と称して、1週間の休暇をくれた。
もらう気はなかったけど、武州に残してある家を売って、大事な荷物だけ引き上げてこよう。
荷物が残りすぎてもよくないらしいから。
久しぶりの武州は懐かしい空気と光景だった。
家に入ろうとすると、近所の人に
「あなたどなた?ここは沖田さんの家だけど」
ととがめられる。苦笑すると
「姉のミツバがお世話になりました。弟の総悟です。」
と頭を下げた。
「あら!そーちゃんかい。ずいぶん立派になって。」
少し、姉上の話を聞いた。よく俺のことを自慢してくれていたらしい、真選組の隊長になったとか、
日夜公務に明け暮れてるとか。心配もしてたみたいだけど。
「お姉さんの結婚式は無事に済んだの?良いところにお輿入りだったんだろう」
「・・・、亡くなりましてねィ。肺の病がよくなかったようで」
「そうだったの・・・。ごめんなさいね。気を落とさないようにね。」
「ありがとうございます」頭を下げると家の中に入った。
久しぶりに入る家の中はきちんと片付けられていた。姉上がでる前に掃除していたんだろう。
やっぱり姉上はすごいや、と思うと目頭が熱くなる。
各部屋を歩いて周り、その時々の思い出を呼び起こす。誰もいないんだ、泣いても良いだろう。
そう思うのに、どこか後一歩で、涙は出てこなかった。
最後に、姉上の部屋に入った。そこだけ空気が違うようだった。
「姉上・・・」呼んだって返事はないのに、わかっているのに、はじかれたように呼んだ。
「姉上!姉上!どうして・・・、どうして!!」
気がつくと泣き叫んでいた。葬式の時もその後もここまで狂うように泣かなかった。
気丈に振舞っていた。あの場所では俺は沖田「隊長」だから。
でも、ここでは姉上のたった一人の血を分けた兄弟。幼い弟。その空気は「素直になりなさい」と
言ってくれている様だった。
そのまま旅の疲れもあって、眠り込んでしまった。
気がつくと、夕暮れが眩しかった。
改めて、姉上の部屋を見回す。やはりもののない部屋。押入れを開けると、行李がおいてあった。
「これは・・・」
その中にあったのは、俺とやり取りした手紙、そして、姉上の日記。それと、新しい手紙。
日記をぱらぱらめくる。俺とやり取りした手紙を見ての感想、日々の記録・・・アイツへの想い。
『今日はそーちゃんから仕送りが来ました。でも毎回毎回十分すぎてなんだか申し訳ない。そんなこと
そーちゃんにいってもそんなことない、と咎めるんでしょうから、私が貯金しておこうと思う。
いつか、そーちゃんが困った時に、助けてあげれるように。体は大丈夫なのかしら。
きちんと生活できているのかしら。』
『そーちゃんからの最近の手紙に真選組の人たちと同じくらいチャイナという単語が出てくるようになった。
きっとよっぽどお気に入りなのね。もしかしたら、私の義妹になるのかしら。楽しみだわ。そーちゃんに
こんなこといったら、きっと起こるのかもしれないけど。江戸に行ったら会ってみたいわ。』
『江戸で、いろいろ事件が起こっているようで、みんなは大丈夫かしらと心配が募る。真選組はそういう人に
立ち向かわないといけないんだもの。みんな無事でいてくれれば。・・・』
姉上の気持ちが流れてきて、涙が出てくる。そして、真新しい手紙に目を通した。
『そーちゃんへ』
これを見ているって事は、私は旅に出てしまったようですね。
でも、心はいつでもあなたのそばにいます。だから、寂しいとか思っちゃだめ。振り返っちゃだめよ。
私がいなくなっても近藤さんも十四郎さんもあなたのそばにいます。たまには頼りなさいよ。
素直に甘えるのも悪い事ではないのだから。あまり意地張って生き過ぎないようにね。
あなたからの仕送りを少し貯めておきました。何かの時に使ってください。
チャイナさんとも仲良くね。あの子を幸せにしておやりなさい。
あなたが私の弟で私は嬉しかった、あなたは私の自慢の弟よ、素直になるのが下手だけど
曲がった事は大嫌いで、誰よりも強くて、真選組のお仕事はあなたにあってるんでしょうね。
そして、とてもとても優しいそーちゃん。あなたの姉で私は幸せだった。
これからも自分の生き方を貫くのよ。 ミツバ
「あね・・・うえ」
きっといろいろ悟っていたのだろう。だから、こんな・・・。
手紙を丁寧に折りたたみしまうと、その下に手紙にあった貯めたお金と近藤さんと土方さんにあてた手紙があった。
見てはいけないと知りつつも、二人の手紙も読んでしまった。
近藤さんには、俺を頼む旨の内容と、局長についている重圧に負けぬように、近藤さんらしさを忘れないように、とあった。
土方さんの手紙は、最後の恋文のようだった。
十四郎様
これを読んでいるとき私はもうどこにもいないのでしょう。
お輿入れすることになりましたが、私はずっとずっとあなたをお慕い申しておりました。
拒まれた時、本当に悲しかったけど、私はあなたが拒んだ本当の意味をしばらくして悟りました。
体の弱い私を長旅につき合わせられない事、いつだって死と隣り合わせの生活。
大事に思ってくれるからこそ、なんだとわかりました。
でも、永遠の保障ができないから一瞬を手放す事をしないでください。
時には一瞬が大事な事もあるんですから。こうやって、別れる時がくるのですから。
私のほうがあなたよりずっと先に旅にでてしまったのですから。
次にあなたが本当に惚れる人ができたなら、一瞬を大事にしてくださいね。
永遠の保障は一瞬の積み重ね。一瞬一瞬が幸せなら永遠を生きれるんですから。
だから、自分の我儘を通すのもひとつですよ。
さようなら、十四郎さん。また、逢えるのを楽しみにしております。 ミツバ
さようなら・・・、土方さんの手紙にだけはっきり書いたのは、土方さんを思ってだろう。
姉上に固執させないように。
その日は、実家で床についた。そして、翌日。家を売る手配をして、大事なものを持って、家をでた。
姉上、俺は・・・、良い弟だったのでしょうか。あなたに迷惑ばかりかけて、
あなたの幸せをすべてとっていってしまった。
後を追いたいけど、そんなことしても誰も喜ばない、悲しみを増やすだけだとわかっている。
せめて、あなたが自慢の弟だと向こうでも胸はって言えるようにがんばります。
二人に手紙を届けたら、自分の部屋を掃除して、明日から、任務に戻ろう。
近藤さんは慌てるかもしれないけど、土方さんは笑ってくれる気がする。
ありがとう、姉上、これからは向こうで、辛いものいっぱい食って笑っていてくだせい。
そして、俺もあなたの傍にいけるときには、笑顔で迎えられる様にがんばります。
武州の空は、向こうまで見えるのではないかと思うくらいのすんだ空だった。
ここから姉上様三部作始めます。というか、勝手に思いついてしまいました。
ミツバさんがなくなって、あの後きっと気丈にしていたのだろうと思っていろいろ考えてこうなりました。
そしたら、この手紙についてぐるぐる考えるうちに、土方さんの話ともちろん沖田さんといえば神楽ちゃんということで
一緒に話しができてしまいました。書かないと混ざってしまいそうだったので、慌てて書きました。 1/5
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