眼鏡男子の憂鬱

「だめだ!!その依頼は断って来い!!」
銀時は珍しく依頼を断るように新八に言った。
「どうしてですか!!眼鏡一ついくらすると思うんですか。それをただで2本 も作ってくれるんですよ」
新八は訳がわからなかった。こんな簡単で、いい話をみすみす手放すなんて。
「別にそれ以外にいくらか依頼料払ってくれるって言うんだし。僕だけの儲け じゃないんですよ」
「そういう問題じゃないんだよ。いいから、この話は断る。社長命令」
「どうしてですか・・・」新八は悲しくなった。

話は数時間前にさかのぼる。
誤って眼鏡を壊してしまった新八が行きつけの眼鏡屋に行った所から始まる。
「はい、直ったよ」
「ありがとうございます。あの、お代なんですが・・・」
「ああ、少し待っておくから。」というと、店主は新八に
「あ、そうだ。新八君は万事屋にいるんだよね。もしよかったら依頼を受けて
ほしいんだけど。
それでチャラにするって言うのはどう」
「本当ですか、で依頼内容は何ですか」
「うちの宣伝ポスターのモデルになってほしいんだよね」
「・・・僕でいいんですか?」
新八は、内容に困惑した。それで、眼鏡代をチャラにしてくれるんだったら安 いものだが、
自分ではモデルにならないのではないか、と思ったのだ。
「十分十分。新八君がやってくれるんだったら、依頼料払う上に眼鏡もう一本 上げるから」
「本当ですか!!いいんですか。」いい条件だと思うのだが一応銀さんにも聞 いてみよう。
そう思い、即答せず万事屋へその依頼内容を持ち帰った。そして、最初の話に 戻るのだ。

「とにかく、断って来い。俺は認めん」
銀時はかたくなだった。
「眼鏡代くらい、俺が稼いでやる。だからやらないでくれ」
「身内の恥さらしって事ですか・・・」
やはり、自分がモデルと言うのは似合わないからだろう、新八は銀時の拒絶を そう考えた。
「違う!それは絶対無い!!むしろ逆だよ」
「え・・・」
「ごめんください。新八君、どうかなさっきの話し受けれそうかい」
眼鏡屋の主人がタイミング悪く着てしまったのだ。
「あ、とりあえず、あがってください。どうぞ」
銀時はむくれたままだった。
「あ、銀さん、さっきの話の眼鏡屋の主人です」
「どーも」
「銀さん、どうかな。新八君少し貸してくれないかな」
「だめです」銀時は即答だった。
「じゃあ、今すぐ新八君の眼鏡代払ってくれるかな」
「う・・・」
万事屋はいつもいつも火の車。神楽がいなくなったとはいえそれは変わらない 。
結局話し合いの結果、モデルとして貸し出すことを渋々了解した。
「今回限りだからな」銀時は捨て台詞のように、言い放った。
「はいはい、じゃあ新八君行こうか」
「え、ええ・・・。銀さん行ってきますね」
新八には意味がわからなかった。銀時が拒絶することも主人が破格の値段をつ けているのも。
モデルになったポスターはすぐに張り出された。
それから、新八の毎日が変わった。

「うーん」
新八は、うなった。どうも、最近陰口を叩かれている気がする。
何だろう、視線も気になるし・・・。
「あ、あの・・・」
なんて思っていると、声をかけられた。
「眼鏡屋のポスターの人ですよね。」
「え、ええ」
「あの、一緒に写真とってもらえませんか」
「え!?」
「だめ、ですか」
「いや、別に・・・、いいですよ」
これをかわきりに、こういうことが増えていった。

そしてある日
「すいませーん」
「はい、いらっしゃいませ」
万事屋に、依頼人らしき人が来た。
「志村新八さんはいらっしゃいますか」
「志村新八は僕ですが」
「ああ!!私こういうものですが・・・」
差し出された名刺にはガミューズタレント部と書かれていた。
「新八さんと契約をしたいのですが」
ガミューズの人は言い出した。
「「はぁぁぁぁ!?」」
話を聞くと、どうやらあの眼鏡屋が眼鏡を作った人に新八のポスターを配った
ら売れ行きがうなぎのぼりになったらしい。
そこに目をつけたそうだ。
「ちょっと考えさせてください」
「そうですか、よい返事を期待しております」
というと、ガミューズの人は戻っていった。
「銀さん、僕どうしたらいいんでしょう」
「俺に聞くな、自分で考えろ」
新八は悩んだ、悩みぬいて考え抜いて出した答えは
「契約しますが、一つ条件があるんです」
「なんでしょう」
「僕の一番の仕事は万事屋です。両立させていただけるならお受けします」
「なっ・・・」
これで断られても、条件を飲まれても自分は万事屋の生活を壊されない、そう 考えたのだ。
ガミューズはその条件を飲んだ。
こうして、新八は芸能界に入ってしまったのだ。

最初のうちは、そんなに仕事もなく、万事屋の仕事のほうが忙しいくらいだっ たのだが、
ファッション誌に何度か出るうちに眼鏡男子と取り上げられブームとなり
あれよあれよと言う間に人気タレントになってしまったのだ。
確かに、あの突っ込み技術は特筆すべきものだし、容姿だっていいほうに入る 。
受け入れられる要素満載だったのだ。
いつの間にやら、新八の一日は非常に長いものになっていった。
朝万事屋で銀時と一緒にご飯を食べると、その後はずっと芸能界の仕事になっ てしまった。

「なぁ、新八」
「なんですか」
「つかれてねぇか」
「全然」
「・・・」明らかに新八は憔悴していた。万事屋が新八のかせになっているの であれば・・・。

「じゃあ、銀さん行って来ますね。」と言うと、銀時に笑顔を向けた。
心配しないでくださいと言う様に。
「あの、さ、新八」
「?なんですか」
「明日から、こっち来なくていいぞ。」
「!!」
「お前を今日限りで解雇する」
「ど、どうしてですか・・・」悲痛な声に銀時の胸は痛んだ。
「わかってるだろう。両立は無理だ」
「だったら、芸能界を「だめだ」」銀時は新八の言葉をさえぎると
「ここにいたらだめだ、わかったな。明日から来なくていい」
と言うと、新八を追い出し、扉を閉めた。
「ぎんさん!!銀さん開けて下さい!!銀さん!!僕納得いきません。僕は・ ・・」
新八は呆然としたまま体の力が抜けて扉の前でうずくまった。
銀時も扉から動けなかった。開けたかったのだが、そうしたら、二度と新八を 離せなくなるのを
わかっていたからだ。でも、そうしてしまったら、新八は不幸になる。
そのうち、遅くなった新八を心配したマネージャーが来て、新八は連れて行か れた。
それがわかったとたん、銀時は玄関にしゃがみこんだ。
「ばかやろー、お前には幸せになってほしいんだよ・・・、だから、俺から離 れろ・・・よ」

新八は、それでも、時間さえあれば万事屋へ行った。
銀時は新八だとわかると居留守を使うようになった。
本当に留守のときは、新八は勝手に上がって、部屋の掃除をし、洗濯を片付け たりした。
銀時は、戻ったときに新八の気配がしているのが悲しかった。
自分から手放したのに、それでもまだ、体が心が新八を追い求めていた。
テレビは必ず見て、記事は必ず保存していた。それだけは新八の見えないとこ ろに保管していた。
銀時は最初からこうなることは予想していた。
しかし、規模が大きくなりすぎている、まさかここまでの反響になってしまう とは。
あの時、是が非でもとめていれば、眼鏡屋のポスターモデルにならなければ、
新八は、まだここにいたんだろうか。
「綺麗な月だなぁ。なぁ、あんたはどう思う。まだ、新八はここにいたんだろ うか」
いたんだろうな、二人で馬鹿なこと言い合って、貧乏だけど、節約して、たま に仕事もして。
笑いあって、やってられたんだろうなぁ。
お妙がごりと結婚して、こっちに居候させてください、なんて話になったり。
「それが現実だったらどんなに楽しかったろうか・・・。」

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スピンオフ企画、新八の芸能界デビュー話です。
眼鏡だし、かっこいいと言うよりもかわいいと言う部類に入るけどなかなかの容姿。
もててもいい気がするんですよねぇ。
と言う事で、こういう話を作ってみました。
しかし、かなりの長さになってしまったので、前後編にします。
絶対この長さはだれるって。わかってても削れなかったんだよねぇ・・・。  080818

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