欲望ーそれでも時は流れるー

2年後、町の人の記憶からサディスティック王子の名前も町を破壊するバズーカの音も風化していった。
真選組1番隊隊長は永久欠番になっていた。神楽は少し大人びてきた。
少しずつ少しずつ変わってきていた。
でも、神楽の沖田への墓参りは相変わらず続いていた。
相変わらず、花と刀を携えていた。
そして、沖田の墓の前で寝泊りしていた。
「おい、菊一文字抱えて墓参りしてる女がいるってここか?」
「ああ、売ればいい金になるだろう。」
「早いとこ奪いに行こうぜ」
そう、2年という時は長すぎる、最初こそ、この少女が持つ刀の意味を知らない人はいなかった、
でも、いまは・・・。

「明日からお彼岸じゃな」
「うん」
「今年もそろそろみな帰ってくるじゃろうて」
「総悟もくるかな」
「ああ、もちろんじゃ。神楽にあいたくて一目散に帰ってくるだろうて」
迎え火を焚きながら2人は話していた。
「じゃあ、今日はここに泊まるネ。銀ちゃんには言ってきたネ」
「そうかそうか」住職は笑顔で答えた。
「今年こそは総悟の姿がみたいネ」
「みれるといいのぅ」
少し湾曲した解釈になってしまったがまぁ、それでも良いだろうと住職はあえて否定をしなかった。
「今日はここで寝るから、早く帰ってくるヨロシ。真っ先に逢いにくるネ。」
というと、沖田の刀を抱きしめて眠りについた。

「いたいた」
「本当にこんなところでねてるんだな、きみわりぃ」
「とっとと、刀もって逃げようぜ」
と、男たちは神楽に忍び寄る
「おっ、いー女。ついでにこいつも売るか」
「それよくねぇ」
「いい金はいりそうだな」
「まずは、刀の拝見といきましょうかね」
といって、刀に手を伸ばすと、その気配を察知した神楽が目覚めた。
「誰あるカ」神楽はにわかに殺気立った。
「その刀奪いにきたのさ」
「ついでにお前も売るけどな」
神楽は無言でかまえる
「俺たちやろうっての?ひゅーこわいこわい」
「3対1だよ。かなうわけないじゃん」
「3人でもこの神楽様には足りないくらいだヨ。」かかって来いよ、と挑発した。
刀をかばいながら戦闘、普通の人間が夜兎にかなうわけがない。
しかし、戦闘場所は墓地。足場が悪かった、地面に足を取られて神楽は倒れた。
チャンスとばかりに、一人が神楽を押さえつけた。
「こいつつえー」
「でも、こうなったら俺たちの勝ちでしょ」
「刀を吟味したら、ついでにこいつもいただいちゃう?」
「それいいねぇ」
などと、下衆な話が聞こえ、神楽は怒りと悲しみがこみ上げた
「総悟、総悟、総悟・・・」神楽は呪文のようにその名前を呟いた。
「あ?なに独り言いってんの。まじこわーい」
「ちきしょう!!総悟!!いるなら助けに来い!!このサドがァァァァ!!!」
『煩いお嬢だねィ』
というと、墓の影から、一人の青年が現れた。薄い色素黒い隊服。
「俺の神楽と俺の刀になにしてんでぃ」
「そ・・・うご?」
「なに、何なのコイツ。覘き?」
「今取り込み中なんだよ。早くどっかいけや」
「俺のことがわからないやつが江戸にもいるんですねィ」
2年てのはそんなに長いんですかィ、というと、男たちを睨んだ。
「なにいってんの、きみわりぃんですけど」
「それとも、俺たちとやろってのか」
「勿論、手前らみたいな悪党をつぶしに現れたんですぜィ。神楽ぁ刀!」
神楽は懇親の力を振り絞って、刀を声のするほうへ投げつけた。
「やっぱりこれがないと。しっくりきませんねェ」
と、すらりと刀を抜き構えた。
「お前、誰だ・・・?」暴漢たちは背中に悪寒が走る。
「俺かぃ」というと、にやりと笑って
「よく聞け!俺はこの刀の持ち主にして真選組が一番隊隊長、沖田総悟でィ!!!」
「真選組一番隊隊長?馬鹿言うなよ。一番隊の隊長は欠番だろ」
「なに沖田の名前騙ってんの」
男たちは口々に非難の声を上げる。しかし、只者ではない殺気に震えている。
「騙るも何も、おれがその沖田総悟ですぜィ。俺の女がやられそうになってるのを見て甦ったんでさァ」
と、神楽のほうを見る。
「俺がいないから、腕が鈍りましたかィ」
「ふん、ちょっと足場が悪いだけネ。」と神楽はむくれた。
「さて」沖田は男たちに向き直ると
「どいつから、菊一文字の刀の錆になりたいですかィ」と、構えた。
「ああ!!」
「な、なんだよ」仲間の大声に一瞬怯んだ男たちは、声上げた男を見る。
「確か、2年前死んだ真選組の隊長には、ものすごく強いチャイナ服着た天人の彼女がいるって聞いたぞ」
ものすごく強くて、チャイナ服・・・。
「夜兎なめんなよ」そして、天人・・・。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!沖田だぁ!!沖田の亡霊だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「やべぇ!!逃げるぞ!!!」
口々に叫んで、男たちは逃げていった。
後に残るのは、沖田と神楽。
「神楽、ただいま」
「そうご?どうして・・・」
「死んだ人間は1回だけこの時期に一番会いたい人に会いにくることができるんだよ。俺は今年を選んだんだ」
「総悟!!」神楽は抱きつき、沖田の胸の中で泣き出した。
「ごっさ寂しかったアル。ごっさ悲しかったアル。あいたかった・・・、逢いたかった総悟・・・」
「俺もでさァ。何度こうしたかったことか・・・神楽。」
二人は、しばらくそのままでいた。
「いつも、上からあんたの話聞いてたんでさ」
「聞こえてたアルか」
「もちろん、いつもちゃんと聞いてた。本当はすぐにでも逢いに行きたかったんだけどねィ。」
「じゃあ、どうして早く来なかったアルか」
「もうちょっと、大人になったあんたを抱きしめたかったんでさァ」
「・・・」神楽は腕の中で赤くなる
「ずいぶん大人っぽくなって、綺麗になりましたねィ。神楽。」
「本当アルか!?」
「ああ、もちろんですぜィ」
それから、今までのこと、いろいろな話をした。何度でも聞いてる話でも沖田はうんうんと頷いた。
「総悟はいつまでこっちにいるアルか」
「お盆が開けるまで、ここにいますぜィ」
「短いアルな・・・」
「戻ってこれただけ、いいと想いなせェ」沖田は神楽の頭を愛しそうに撫でた。
「うん・・・でも、寂しいアル」神楽は、されるがままにしていた。
「まぁ、今日はもう寝ますぜィ。明日から、少しの間、ずっと一緒にいよう、神楽」
あの頃の様に・・・、と沖田は言った。
あの頃・・・、沖田と神楽の闘病と看病の日々。
ずっと一緒にいた、寝起きをともにし、ともに食事をして1日を二人で過ごした日々。
辛い様で、それでも楽しかった毎日。
「少しの間しか一緒に入れないなら、その間、ずっと離れないでそばにいるヨロシ」
と言うと、しがみつくように沖田に抱きついた。
翌日から、二人でいろいろな所に出かけた、定春にも沖田が見えるらしく
二人を乗せると、嬉しそうに鳴いた。
一日は長いようで、短く、短いようでずっとずっと続くように錯覚すらさせた。

「今日が最後アルな。」
「そうですねィ」
「そうしたら、もう二度と・・・」沖田は神楽を抱きしめると
「俺はいつでもお前の胸の中にいる。何かあったら俺を思い出せ。笑い飛ばしてやるから」
俺は、ここの上からお前をどこにいても見守ってる。と、力強く言った。
「総悟」
「なんでィ」
「総悟の隊服一そろえもらったアル」
沖田は頷く
「アタシ、総悟と同じ年になったらえいりあんはんたーになる。パピーも了解してくれてる」
「ほう」
「その時は、総悟の隊服を着てえいりあんはんたーになるアル」
沖田は微笑むと
「がんばりなせィ。俺はいつも神楽お前とともにありますぜィ」
「ありがと、総悟。総悟ならそういってくれると思ったアル」
その後二人は言葉無く、抱きしめあっていた。次太陽が昇るときには沖田の姿は無い。
「総悟」
「神楽」
短く、名前を呼び合うと、短いキスをした。誓いのキスのように。
「しょっぱい」神楽は泣きながら笑った。
沖田も、何も言わず微笑んだ。

気がつくと、朝日が昇っていた。神楽は一人だった。
「総悟・・・」
いつの間にか眠っていたのだ。
『俺はいつもお前とともにある』沖田の声が聞こえる
「わかったアル」神楽は力強くうなづくと、沖田の墓の前から歩き出した。

            という事で、久しぶりの更新、沖田さんの話の続きです。
            この頃は、ものすごく表現力があったなぁ。今、負けます。
            ここは、大泉洋様が作った、舞台の内容をちょっともらってます。
            大泉さんの話では、新盆には好きな人に会いにいけるというものでしたが、私は、一回だけ会いにいけるに変換しました
            この話が好きで、沖田さんの話を考えた時に、絶対これを使おうと思いました。
                                                       080630
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