欲望ーそれを望むのは罪、ですかー


しばらく塞ぎこんでいた神楽も周りの優しさと眠り続けたときの沖田との約束を胸に徐々に普段の生活に戻った。
そうして、日常に戻ったある日のこと、
「邪魔するぞ」
久しぶりに見る黒い隊服に思わず眩暈を起こしかけた神楽を受け止めて、
「久しぶり、多串君。今日はどうしたの」
「ああ、今日は、チャイナ娘に用があってな」
「なにアルか」
「離れの荷物を整理する。欲しい物を持って行ってほしい」
「どうして・・・」
「この世に荷物が多く残ると未練が残って成仏できねぇ。だから、必要なもの以外はのこさねぇ。あいつには肉親がいない。お前が持っていてくれたほうがいいものもあるだろうと思ってな。」
つらいとは思うんだが・・・というと土方は俯いた。
神楽は少し考えると
「わかったアル」
とだけ答えみんなで屯所へ向かった。

屯所に着くと、隊士みんなが神楽を出迎えた。
「神楽、久しぶりだな。」
近藤が声をかける、
「元気だったカ、ゴリ」
「はは、相変わらずだな」というと神楽の頭をくしゃっと撫でた。
「神楽、まずはお前が欲しい物をもっていってほしい」
「え・・・、何でもいいのカ」
「もちろんだ」
というと、みんなで離れに足を踏み入れた。
あの頃と変わらないのに、ずいぶん久しぶりで、ずいぶん広く感じた。
「ゴリ」と、神楽は近藤を呼ぶと
「しばらく一人にしてほしいネ。」といった。
「ああ」短く返事をすると、近藤がみんなを出し、襖を閉めた。
襖が閉まったとたん、神楽は泣き出した。いろいろなことが思い出される、笑顔もむくれた顔もすねた顔も苦しそうな顔もそして、
愛してるといってくれた時の穏やかで優しい顔も。
襖の外では神楽の泣き声に駆け出そうとした新八を銀時が制していた、
「銀さん!!どうして!!」
「あそこには沖田君との思い出が詰まってる。二人きりにしてやれよ。見守るのも優しさだよ」
「ふたりきり・・・」
その泣き声の前で、すべてのものは無力だった。

泣きつかれた神楽の前に沖田が現れ、襖を指差すと消えてしまった。
「総悟!!」
気がつくと沖田はいなかった、どうやら泣きつかれて少し寝ていたようだった。
沖田が指差したほうの襖を開けると、行李がおいてあった。
開けると、そこには手紙とアイマスクがおいてあった、封筒には「神楽へ」と書いてあった、
「あたし・・・?」
無意識に、封筒を破っていた

愛しい神楽へ
お前がこれを読んでいるってことはもう俺はあんたのそばにはいないようだな。
毎日毎日ありがとう、無理すんじゃねぇって言っても聞かないだろうから、あんたのいいようにやらせてやるよ。
でも、毎日逢えて、俺はとても嬉しいんだよ。口に出していえないけど。
きっと、これを読むときは形見分けのあたりか、離れの解体のときだろうから、これを見せて土方さんか近藤さんにこう言うんだ
総悟の菊一文字をくれと。俺は、お前に持っていてもらいたい、俺の刀を。
刀は武士の魂だから、お前に俺の魂を持っていてもらいたい。
後、好きなものを何でもくれてやる、もって帰れ。

いいかい、神楽。俺を追って来てはだめだぞ。一生懸命生きろ、俺の分まで。
そして、立派なえいりあんはんたーになれ。お前の夢を貫け。
俺は、お前を見守ってる。姿が見えなくても、俺はお前のそばにいる。
だから、生きるんだ、そして、星ぼしを回って、いろんな人を助けてやれよ。
お前さんをそばでいつも見守っているよ、神楽。

「逢いたい・・・総悟・・・」手紙を握り締めて、神楽は泣いた。
逢いたい、あの色素の薄いさらさらの髪に触れたい。憎まれ口を叩きあって、じゃれあって、喧嘩して。
そんな普通の毎日を望むのは罪ですか・・・。

神楽は襖を開けて、土方と近藤に手紙を見せた。
「総悟・・・。トシ菊一文字は」
「俺が預かってる、こういうことになるんじゃないかと思ってな。今もってくる」
「神楽、ほかにほしいものはあるか」近藤は優しく神楽に問いかける
「総悟のサイズの隊服をひとそろえほしいアル」
「ああ、いいぞ、あのサイズの隊長服はもう着るやつもいないからな。後はいいのか」
「十分ネ」
「もってきたぞ」土方はそういうとそのまま神楽に渡した
「あいつの刀だ」神楽は言葉なく受け取ると刀を抱きしめた。
「お前には帯刀の許可も取ってある。街中でそれをもっててもとがめるやつはいないよ」
もっとも、お前が刀持っててもうちの奴等は誰も咎めんけどな、というと笑った。
神楽は隊服と刀とアイマスクをもらった。あとは、隊士が沖田の形見分けをした。
「神楽、ちょっと来い」
土方は、万事屋一行を呼び出すと、屯所を出て寺に入りある墓の前で止まった。
「総悟の墓だ」
「ハカ?」
「しらないのか?」土方は怪訝そうな顔をした。
「俺や神楽には死んだやつに墓を立てるということをしないだろう。夜兎にはそういった概念もないかもしれない」
親殺しの風習があると聞いたからな、と銀時は言った。
「そうか・・・、神楽、総悟はここに眠っている。たまには遊びに来てくれ。ここならあいつに想いも届くと思う」
「マジでカ」
「・・・きっとな」銀時は優しく神楽の頭を撫でた。

それ以来、不思議な光景が度々目撃された。傘を差して花と刀を大事そうに抱えたチャイナ服の少女がお寺に入っていったと思うと
なにやら話す声が聞こえるのだ。
住職がその声の主を見に行くと、数々のお墓の中でも一際大きな墓の周りに花を敷き詰めて笑顔で語りかける神楽がいた。
「お嬢ちゃん」
「なにアルか」
「そこは、お嬢ちゃんの大切な人がいるんかな」
「そうアル、あたしは神楽。お嬢ちゃんじゃなくて歌舞伎町の女王ネ。」
ほほほっと、住職は笑うと
「このお墓の主は確か真選組の若き隊長さんのものだったね」
「そうアル、あたしが愛した人ネ」
「そうかいそうかい」と住職は目を細めると
「きっと隊長さんも喜んでるだろうねぇ」と笑った。
「・・・なぁハゲ」
「ハゲではなく住職と呼んでほしいですねぇ」
「じゅーしょく、ここに泊まりたい時はどうしたらいいアルか」
「私に言って下さい。一日くらいなら宿代わりにしてもいいですよ」
「違うアル」というと、墓に向いて
「ここで寝たいネ。」と言った。
住職は一瞬困った顔をして、
「地面は硬いからきちんと敷くものをもってきなさい。冬は寒いからいけないよ」
私が、ここの主だよ、と付け加えた。
「ここは、じゅーしょくの家アルか」
「ええ。あなたのような訪問者なら歓迎しますよ」と言うと、笑った。
そして、
「泊まりにくる時は、家族にちゃんと行って来るんだよ」
「わかったアル」ありがとう、と住職に笑うと、
「今日は言ってないから帰るネ。また来るネ」
と言って、駆け出していった。
それから、何度か神楽は墓の周りで寝泊りした。住職に思い出話を何度もした。
良いことも悪いこともすべてお墓の前で話した。
そうして、2年の時が過ぎた。

という事で、続きです。1話1話が長くなったので、全部で6話プラススピンオフになりました。
この回は果たして夜兎の神楽に墓の概念があるのかどうか、という事で、
神楽なりの解釈でほったらかしたら、こうなりました。
2年後という強引な進め方ですが、これから、時間は急速に流れていきます。
                                              20080420
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