欲望ーそれでもその時は訪れるー


翌日から神楽は朝早くから夜遅くまでを屯所で過ごした。ずっと沖田と生活をともにしていた。
沖田の体調のいいときはさだはるに乗って散歩に行き、体調が悪いときは部屋にいた。
それでも、沖田の身体は着実に病に蝕まれてゆく。
寝たきりになるまで時間はかからなかった。
「悪ィ・・・、今日も起きれそうにないですぜィ」
「悪いことないアル。ゆっくり寝ればいいネ」
「最近は寝つきも悪くなってきてねィ」
というと神楽に顔を背けながら
「目ェ閉じたら戻れなくなるような気がするんでィ」と弱々しく呟いた。
「なに弱気になってるんだよ。サドのくせに」と無理やり悪態つくと
「そうですねィ」と、力なく笑った。
「神楽」沖田の真面目な声に神楽は驚き顔を覘く
「ありがとう。一緒にいてくれて。本当に、本当にあんたを愛してますぜィ」
神楽は目を見開いて
「なっ、何を言い出すアルか!!恥ずかしいやつアル」
「言えるのも、今のうちと思いましてねィ」と、いつもの口調に戻ってへらりと笑った。
「じゃあ、言えなくなるまで、毎日言うヨロシ。何度でも聞いてやる」
「贅沢なお人ですねィ。毎日だって毎時間だって言ってやる、何度でもいってやりまさァ」
というと、お互い笑顔になった。
神楽は思った、最近医者が来る回数が減った、吐血の回数は増えてゆく、そしてこの物言い、総悟はきっと自分の寿命を・・・。
不安にかられた神楽は土方のもとへ走った。
「ニコ中!!あたしをここに泊めるネ!!」部屋の襖を開けるなり神楽は叫んだ。
「な・・・、何をいきなりぬかしやがる」土方の口から煙草が落ちる。
「いいから、泊めるヨロシ」
「・・・、いつまでだ」
「ずっと、ずっとヨ」
土方はひとしきり考えると、立ち上がり神楽の脇をすり抜ける。
「どこにいくアルか。答えてはくれないのカ!!」
「うるせい。電話かけと近藤さんのところだ。近藤さんがここの局長だからな。後、万事屋に電話しないと着替えとか必要だろ」
と、振り返りもせずに言うと、歩き出した。

土方は思っていた、医者がさじを投げたというのに、総悟がまだしっかりと意識を持って生きているのは、あのチャイナ娘のおかげだろうと。
その、チャイナが泊まりで看病したいというのだ、そのまま受け入れようと思った。
それで、総悟が少しでも生きれるのなら、楽しい思い出ができるのなら。
近藤さんも万事屋も快く了解してくれた。受け入れなくでもあいつは勝手に寝泊りしただろうけど。
明日をも知れない命なら、最後までともにいたいのだろう。わからない話ではないと。

「総悟!!」
神楽は、土方・近藤の話を聞いて戻った。
「あたし、今日からここで寝起きを共にするネ。もう、マヨにもゴリにも話はつけたネ」
沖田は驚いた顔をすると穏やかな顔になり
「面白いこと言いますねィ」というと、苦しそうな顔で吐血した。
「総悟!!」
「だ、だいじょうぶ・・・でさ」無理やり笑顔を作る。
「総悟の隣に布団をしいてもらうアル。いつでも一緒にいてやるアル」
「ありがたいことでさァ」
その日から、神楽は片時も沖田から離れずに献身的に看病した。しかし、吐血の回数は増える一方、それを励ましながら神楽は沖田を看病した。
「おい、チャイナ」食事を持っていこうとする神楽を土方は呼び止めた
「お前、大丈夫か。疲れていないか」
「このくらい、なんでもないアル。」
「無理すんなよ。お前が倒れたら俺は万事屋にも総悟にもなんていっていいのか」
「平気アル。あたしは倒れないネ」
「・・・わかった」
今はあいつにかけるしかない、でも、自分でも何とかしたい。そうは言っても総悟の病は人にうつる。自分たちが行っても何もできないのだ。もどかしい想いをのみこんで、神楽を見送った。
そんな神楽の献身的な介護もむなしく、その日の朝を迎えた。
神楽と土方は同時に目が覚めた、神楽は総悟を見る、息も絶え絶えな総悟がそこにいた。
「総悟!!」
もう、総悟は返事もしない。昨日はあんなに普通だったのに・・・。
同時に目が覚めた土方は山崎の部屋に急ぐと
「山崎、医者呼んで来い!!今すぐだ!!」
山崎は、飛び起きると
「はいよっ!!」
と、寝起きとは思えないほどに駆け出した、土方は近藤を連れて沖田のいる離れに進んだ。
「総悟!!」
そこには、真っ白な顔をした沖田がいた。
「な・・・んでい・・・そろって・・・う・・・るさくて・・かなわ・・ねぇ」
「わかったから、もうしゃべるな」
神楽はもう何も言わずにただ沖田の手を握ってうずくまっていた。
「こ・・・んどう・・・さ・・ん。いま・まで・・ありが・・・とう。みすて・・・ない・・・で・・・いてく・・・れて」
「総悟・・・」
「ひじかた・・・さん。こん・・ど・・・うさん・・・とこい・・つ・たの・・み・・・まさ」
「わかった、わかったから大人しくしろ」
「かぐら」
「・・・」神楽は黙って沖田を見つめる。
「おれを・・・わすれろ・・・も・・・っと・いい・・・ひ・・と・・を」
「嫌よ!!あたしには総悟だけアル!!総悟以外に誰もいないアル!!」
「ほ・ん・・とうに・・・あい・・・して・い・・・る・・・お・・まえだ・・けを・・・」
ありがとう、と唇だけ動いて、あいつの身体は抜け殻になった。医者がついたのはそれから3分後だった。
たくさんの隊士が沖田の周りで泣いていた、ただ、一人神楽だけが何もなくまた、抜け殻になっていた。
「山崎」
「・・・」
「万事屋行ってくる」
「・・・はい」
山崎も、返事すらままならないほど涙を流していた。
わずかな返事を聞き取った後、何も物言わなくなった神楽をつれて屯所を出た。

「邪魔するぞ」
その扉は鍵がかかってないのか、簡単に開く。
「神楽ちゃん!!」
「・・・」神楽のその目に光はない。
「長いことチャイナ・・・神楽にはよく働いてもらった。真選組を代表して礼を言う」
「それじゃあ・・・」新八は察してくれた。
「お帰り神楽」銀時ももう起きていた。二人も胸騒ぎがして、万事屋で待機していたとのことだった。
「銀ちゃん・・・新八・・・」二人の姿を確認すると同時に、神楽は倒れた
「神楽!!」「神楽ちゃん!!」二人は駆け寄る、土方はいたたまれなかった。
「・・・すまない」やっと出たのはこの一言。
「いや、神楽は自分でここまでやったんだろ。中途半端にかかわるよりこの方がずっとよかった。我侭受け止めてくれてありがとな」
「万事屋・・・」
銀時は新八に神楽を病院に連れて行くよう頼むと、部屋に土方を迎え入れた。
「お前も、ずいぶん大変だったんじゃないのか」
「おれは、なにも。神楽に比べれば」
「いや、顔が物語ってるよ。いろいろなもどかしさ口惜しさと戦ってたんだろう。」
「・・・」
「屯所じゃ泣けねぇだろ。お前は副長だしな。感情丸出しな局長だと、お前がいろいろ仕切り役だろう。今だけはいいんじゃないか」
「・・・な・・・なんの・・・」
「わかってるだろ、ここじゃ、真選組の副長とか関係ないってことだよ。もう、いいよ。今は土方十四郎になりなよ」
というと、土方の頭を自分の肩口に引き寄せて背中を叩いた。促されるままに土方の目から涙がこぼれた。
「どうして、あいつだったんだよ。どうして俺が変わってやれないんだよ。俺なんかよりあいつのほうが未来だってあったはずだ!!」
銀時は黙って聞いている、いつの間にか土方は銀時の着物を強く握っていた。
「神楽と想いが通じたばっかりなのに・・・どうしてすべてを奪うんだよ!!」
銀時にも似たような経験があった、戦争の中自分だけが生き残る、自分以上に価値のある人間なんていっぱいいただろうに、
どうして、自分だけが生き残ってしまうのか。土方の気持ちが痛いほどわかった。
しばらく泣くと、いつものように感情を殺した顔で土方は銀時から離れた。
「万事屋」短く呼ぶと
「ありがとう、楽になった」
「お互い様、だろ」
「最後の見送りには来てくれ」
「ああ」
しかし、銀時と新八は見送りにはいけなかった。神楽が目覚めなかったのだ。病院が言うには、精神的ダメージで
起きることを拒否しているということだった。身体は健康そのものだと。
「神楽ちゃん・・・沖田さんの最後を見たことがよほど・・・」
「あとは、神楽がどうしたいか、だな」
新八も黙って見守った。
神楽は、闇の中をさまよっていた。どこにいっても、あの薄い色素の髪には、意地悪な笑い顔には、サディスティックな物言いには
もうあえない・・・。わかっていても探すことをやめることはできなかった。
「神楽」
そして、神楽は見つけてしまった。
「総悟!!」
駆け寄り抱きしめる。
「はァ・・・、まったくどうしようもない人ですねィ」
「そう・・・ご?」
言われてる意味がわからない。
「こんなことしてたら、あんたまで死にますぜィ。いいから、とっとと目覚めなせィ」
「嫌アル!!総悟とずっといるアル!!」泣きながら神楽は総悟に迫った。
「神楽」真剣なまなざしで神楽を見つめる総悟に、神楽も言葉なく見つめ返す。
「あんたは俺の知らない世界を見てきなせィ。そして、また、一緒にいれるようになったらその話を俺にしてくだせィ。永遠にあんたの話聞きまさァ」
だからというと、
「俺と同じところにこれるように命を粗末にしないで生きなせィ。旦那と新八君が待ってる」
「銀ちゃん・・・新八・・・」
「俺は、あんたをずっと待ってる。だから、いろいろ見てくるんですぜィ」
そういうと、沖田は強い力で神楽の背を押した。
「旦那!!、新八君!!神楽を頼みますぜィ」と叫んだ。
「沖田君!!」「沖田さん!!」二人は神楽の顔を見る、
「う・・・」神楽が動き出した。
「新八!!医者!!」銀時が弾かれたように叫ぶ
「はい!!」新八は飛び出していった。
「・・・ぎん・・・ちゃ・・・」
「神楽、おはよ。気分はどうだ」
「ここは?あたしは・・・」
「病院だ、一週間眠り続けてたよ」銀時は優しく髪を撫でた。
「総悟は、幸せだったのかな」神楽の問いかけに、
「もちろんだよ、愛する人と最後までいれたんだから」
「総悟・・・」神楽は声を出さずに泣いた。
その後、医者に見てもらい、問題ないとのお墨付きが出たので、3人で病院を後にした。

欲望2話目。長いことあっためた話だったのに、エンディングも思いついてるのに
そこにたどり着けない自分が腹立たしい。
後は、エンディングを書くだけなんです。それとそれに見合ったスピンオフ話と。
構想はあるのになぁ・・・。
                                       20080330
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