闇に降る雨

あまりの蒸し暑さにたまらず目を覚ます。まただ・・・。俺は頬を伝った涙の後を感じた。
監察の仕事の中でもやはり人を殺さなくてはならないときがある。
そうすると、夢の中に必ず出てきてしまう。お前は人を殺している。お前だけ幸せになろうとは思うな、といわれているようだ。
外を見た。雨が降っているようだ。「道理で蒸し暑いわけだ・・・」
涙の後を消したかったのか、ただそこにいたかったのか、俺は雨の中にのろのろ出て行った。
あなたは、こんなぬるい雨は嫌いでしょうね。闇夜にぬるい雨。あなたの知らない、俺だけの場所。
人を殺した時は真っ先にあの人にあいたくなる、俺を受け止めてくれる腕、綺麗な黒髪。
でも、同時にあそこにいってはいけないと思う。汚れた自分を受け止めてくれるのかわからなくて、
怖くて、臆病になって、逢いに行きたい気持ちを必死で飲み込んで、自室で静かに眠る。
「だれだァ、そこにいるのは」
振り返ると、そこにほしかった人がいた。土方さん・・・。
「なんだよ、山崎じゃねーか。なにやってんだ、風邪引くぞ、早く寝ろ」
ぶっきらぼうに言うと土方さんは部屋に戻りだし、
「あぁ、今日は俺、目がさえて寝れねぇから起きてるつもりだ、じゃあな。」
と呟いて、歩いていってしまった。
「・・・・」
俺が泣いてること、わかったのだろうか。その前に、雨の中にいたらそれだけでおかしいか。
土方さんのぶっきらぼうなそれでも頼もしい優しさに、微笑むと、部屋に戻って、居住いを正して、
土方さんの部屋に向かった。

『退、人間というのはな、誰かには誰かが絶対いるんだよ。いなかったらだめになるくらいに』
『???』
『わかりにくかったか?人間誰しも必要にしてくれる人がいて、周りにかけがえのない誰かがいて初めて強くなれるんだ』
『僕には誰もいないよ土方さん。お父さんもお母さんも』
『両親がいなくてもここに俺がいるだろう。少なくとも俺にはお前が必要だ、退。真選組にはお前が必要だ』
『本当に?僕が必要?』
『あぁ。』土方さんは笑顔で答えてくれる。
『僕も。土方さんや沖田さんや近藤さんやみんなが好き。みんなと一緒にいたい』
『あぁ、その気持ち忘れるなよ。俺たちはいつもお前の味方だからな』

昔、土方さんからそんな話を聞いた。俺は、そのときにとんでもなく重く必要なものを受け取った気がした。
そんなことを思いながら、土方さんの部屋の前に着いた。
確かに、寝れない、とは言っていたが本当に着てしまってよかったのだろうか。
昔は、事あるごとに一緒に寝ていたこの部屋に足を踏み入れるのをためらったのはいつからだろうか。
入る勇気もなく、帰る勇気もない俺を察したかのように襖の向こうから
「入れ」土方さんは、言葉少なに俺を促した。
「何か・・・、あったのか。」土方さんは心配そうな声で聞いてきた。
「・・・」話すことすらためらう。何を話していいのか、どう話していいのか、整理がつかない。
しばらくしたあとようやく「・・・人を、殺しました。仕事の上でもう何人も」それを言うのが精一杯で。
「あぁ。」さして、同様もせず、土方さんは相槌をうった。どうしてこの人は冷静なんだろう。
「殺すたびに俺は思うんです。この人にだって『誰か』がいるのに、その人にしてみれば大事な人なのに、俺は、奪ってしまった。」土方さんの冷静さと反比例して、俺の気持ちが昂ぶっていった。
「あなたを・・・許さない。あなたが、俺にそんなことを教えるから、俺は冷静に人を殺せない。誰かには誰かがいるなんて、知らなければこんなに苦しい事ないのに・・・」
ーパァァン
何があったか一瞬わからなかった。頬がしびれてくる、熱を持つ。
「苦しい?そんなのみんな抱いているよ。それを失ったら俺たちはただの殺人鬼だ。俺はお前に殺人鬼になれといったことはねぇ!!」土方さんは俺を睨みあげた。
「お前のやったことは、確かに誰かの大事な人を奪ったかもしれない。でも、そいつが次の日事件を起こして、もっと多くの人の大事な人を奪っていくかも知れない。お前はそれを防いだんだ。」
確かに世間的には事件を起す輩ばかりだ。多くの人のためになっているのかもしれない。
「もし、お前が、そいつを殺らなかったせいで、次の日そいつに俺が殺されたら。お前はどう考えるよ」
そこではっと気付く。観察になったときから、考えていた。
自分の大事なものは・・・土方さんは俺が必ず守る。土方さんの影になると。
「もし自分で自分が許せないなら、そう考えろ。それでも飲み込めねぇなら俺に言え。俺がお前を許す」
緊張の糸が切れたのが自分でもわかった。俺は大きな声を上げてたたみに突っ伏して泣き出した。
俺は、誰かに許されたかったのかもしれない、誰かの大事なものを奪って、自分は大事な人のそばにいれて。
その状態を許してほしかったのかもしれない。土方さんが俺の髪に触れたとき、俺は縋り付いて土方さんの胸で泣いた。土方さんは、俺の髪を梳きながら撫でてくれて、泣いている俺に
「やま・・・退。お前が人を殺している事は知っていたよ。そのことで、思い悩んでいる事も。お前は聞いても口を開くやつじゃないから、お前から話すのを待っていたんだ。そのまま、どこかにいってしまったらどうしようかと不安に思っても、こういうことに関しては人に口を割らないやつだったから。話してくれてありがとよ。もう溜め込むな。俺はお前をすべて受け止めてやるから」珍しく優しい口調。
「どこにも行きません。傍において下さい。」声を振り絞ってそれだけ伝えた。

目が覚めると、土方さんの胸の中にいた。どうも、泣きつかれてそのまま寝てしまったらしい。
見上げると、土方さんも寝ていた。俺が寝てしまったから、土方さんはその格好のまま寝ていたのだろう。
ありがとう、気持ちを込めて、口付けをした。
あなたに、俺のすべてを委ねます。もう、それが危険か安全かなんて、わからないけど、留め金なんかもうない。
あなたに、一生かけてついていきます。俺のすべてをささげますから傍に、傍において下さい。


曲を聴いたとたんに雨の中任務直後の山崎が浮かびました。悲しい悲しい顔で雨と向き合う山崎。
銀魂占いで、山崎と出てからちょっと山崎に愛着がありました。
そして、山崎が忠誠を誓う男土方さん。この二人の話にして見ました。
最初は任務直後で、土方さんを訪ねるという設定で考えていたのですが、曲が目を覚ましてたところで始まってるので、
悪夢からの寝起きで、雨に打たれるという方向にしました。
土方さんが、許すといったのは実は自分でも驚いてます。本当はノープランで、挑んでました。
指が勝手に土方さんの台詞を書いてました。でも、山崎さん自分が自分で許せないところにきていたんじゃないかと思いました。
だから、いろいろ考えながらも土方さんに話をする気になった。
まぁ、結果オーライなんですが。                             11/13

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