バレンタインという日には



公園で定春を遊ばせていると、よく目にする色素の薄い髪の毛を風になびかせて
ベンチの隣に腰掛けてくる男がいた。
「よぉ、朝から遊べるなんて相変わらずガキですねィ」
「お前こそ、朝からサボりか?税金泥棒は楽でいいアルな」
「そんなことより、今日は何の日か知ってますかィ」
神楽はふふんと笑うと
「毎日ワイドショーを見ている神楽様には愚問アル。今日はバレンタインデーね」
といった神楽に手を差し出すと
「わかってるんなら、さっさとよこしなせィ」
「なにを、あるカ」
沖田はずっこけると
「バレンタインデーって、どういう日か知ってるんですかィ」
「来月高いものを買ってもらうための、種まきの日」神楽は真顔で言った。
「誰からそんなこと聞いたんですかィ」
「姉御アル」
あの人の女の広辞苑にはいったい何を載せてるんだ、そう思いながら神楽に、
「違いまさァ。この日は女性が好きな人にチョコレートを渡して愛の告白をする日ですぜィ」
「そうだったアルか」というと、神楽は急に
「わかった!!」と言い出した。
「何がでィ」
沖田の目の前に水筒を出すと
「新八がもっていけって用意してくれたネ」
というと、コップを沖田に渡して、中身を注いだ。
「ココア・・・、ですかィ」
「新八のココアはおいしいアル」
というと、自分のコップにも注いで、飲みだした。
「へぇ・・・、確かに一味違いますねィ」
「そうダロ。新八はさすがアル」
というと、あれ?と言い出した。
「何ですかィ」
「髪の毛に、何かついてるネ。とってやるから、目をつぶるアル」
沖田は素直に目をつぶると、唇にやわらかい感触。
「神楽、おまえ・・・」
「意味をよく知らなかったんだから、今年はこれで我慢するアル。来年はこれよりもおいしいものを用意しておくネ。」神楽は真っ赤になってそれだけ言った。
「これより、甘くておいしいものなんて、どこ探してもないと思いますがねィ」
というと、神楽にキスをした。

午後
「副長、そろそろ一服してください。根詰めすぎると体に毒ですよ」
というと、副長室の襖を開けて文机に向かう土方にお茶を出した。
「ほら、換気もして。灰皿も新しいの持ってきましたから」
「山崎、いつもすまねぇなぁ」
「気にしないでください。副長の体調管理も自分の役目だと思ってますから。」
というと、山崎は土方に微笑んだ。
「今日は、お茶請けにチョコレートを持ってきてみました。」
というと、土方に差し出した。
「なんだ、珍しいな。」土方は甘いものは苦手なためお茶請けは無いかあっても煎餅や果物だった。
「チョコレートは栄養価が高く頭の回転を良くしますから、また、ポリフェノールは体にいいって聞いてるんで。事務仕事にはいいかなぁと思いまして。」
「今日はバレンタインデーだしな。」
「そうなんですよ。こうでもしないとっ・・・て、なに言わせるんですか。」と山崎は真っ赤になりながら
「たったまたまです。テレビでチョコレートの効能についてやってたから、事務仕事のときはいいなぁと思っただけですよ。」
その必死な否定が真実味をましている。土方はくすくす笑うと
「ありがとう山崎。いろんな情報を集めて還元してくれて、お前がいるから俺は倒れないで済むのかもな」というと、チョコレートを一つ口に放り込んだ。
「へぇ、うまいな。このチョコレート」
「本当ですか!!」というと、咳払いをして
「いや、別に始めて挑戦したからお気に召さなかったらどうしようかと思ってただけですよ。」
決して、バレンタインとか関係ないですからね、と山崎は言った。
土方はそんな山崎が可愛く、このままでいてもらいたいものだと目を細めた。
「さて、と。事務仕事は一段落したし、山崎見回りいくぞ」
「はいよっ副長」
ああそうだ、と土方は言うと
「来年も頼むな」とだけいって立ち上がった。
山崎は真っ赤になりながら
「だから、違いますって」といいながら、来年は何を作ろうかと思いを巡らせつつ土方の後を追った。


食事が終わると、銀時は夢の中。
「ったく、しょうがないなぁ。銀さんこんなところで寝ると風邪引きますよ」
「うーん」
唸るだけ唸って起きようとしない。
「せっかくチョコレートあげようと思ったのになぁ」
昼間だと、神楽と取り合いになると思い、神楽の寝たあとで銀時に渡してちょっとだけ
甘い時間があればと思ったのだが、朝早くから依頼が入っていたため、銀時にしては珍しく早起きだった。そのせいでこんな早くからまどろんでいるのだ。
でも、ちょっと位、今日のことを考えてくれてもいいんじゃないかなあと思うと
新八は腹いせに、銀時のお腹の上にチョコレートを置いた。
「溶けても知りませんよ〜」
と銀時にいうと
「う〜」
といいながら、箱を抱えて寝返りを打ってしまった。
新八は、あきれつつ、そんな銀時が可愛く思えて、そのままにしてしまった。
家事が一通り終わったので、改めて銀時を起こす。
「銀さん、いい加減に起きてください。僕そろそろ帰りますよ」
と、起こしながら、銀時をじっと見てる。その姿を見た銀時は
「んー、どうした?」
「・・・起きてくださいって。それだけですよ。風邪引かれても困りますから」
と言いつつ、新八は銀時のそばを離れない。
「どうしたの?」
「・・・なんでもないですよ」
その答えを聞くか聞かないかのところで銀時はまた眠りに落ちていた。
「はぁ・・・」
しばらく、新八は銀時のそばに座って見ていたのだが、銀時におきる気配が無いのを見ると
「銀さん、今日は僕もう帰ります。また明日来ますね。」
「んー、おつかれ〜」銀時は目も開けずに手を振った。
ため息をつくと新八は出て行った。
バタン、ガチャガチャ、新八が鍵をかけてくれた音で銀時は目が覚め始めた。
「ん・・・、新八帰ったのか・・・」
と、お腹の辺りに違和感を感じてそのあたりを探ると、きれいな包装紙に包まれた、小さな箱を見つけた。
「これは・・・」
たしか、有名ブランドチョコの包装紙・・・。
開けると、見るからにおいしそうなチョコレートとメッセージカード
『銀さんいつもありがとうございます。あなたが僕らを大事に思ってるように僕もあなたが大事です。
これは全部銀さんが食べていいですけど甘いもの程々にしてくださいね。あなたの体を案じてる人がいること忘れないでくださいね。ハッピーバレンタイン。大好きな銀さんへ。新八』
しまった、と銀時は思った、道理で今日は新八がずっと起こそうとしていたわけだ。
今、閉めた音を聞いたんだから、まだそう遠くには行ってないはずだ。と、銀時はあわてて外に飛び出しスクーターに飛び乗って新八の後を追った。
「新八ィ!!!」
振り返ると、銀時がスクーターを飛ばして来た。
「銀さん!!」新八の近くで、スクーターが止まった。
「なにやってるんですか。また、事故でも起こしたらどうする「ごめん新八!!」」
困惑した顔の新八に
「チョコレートありがとう。すごくすごく嬉しいよ。」と新八に笑顔で告げると
「まったく、そんなことのためにスクーター飛ばして・・・。明日でもいいのに」でも、と続けると
「銀さんが喜んでくれてよかったです。」と新八も笑顔になった。
「送ってくよ、乗ってけ」
「あ、ありがとうございます」
というと、後ろに乗っかり銀時の腰に腕を回した。
風は冷たいけど、自分の言いたいことをわかって追って来てくれた大事な人の心意気が嬉しくて
なんだか暖かい気分になった。
来年は、もっと甘いひと時ができればいいなぁと思いながら、新八は銀時にしがみついた。

翌日
「トシィ」
「どうしたんだよ」
「お妙さんからチョコレートもらったんだよ」
「へぇ、良かったじゃねぇか」
「あたしの愛にくらべたら、大きすぎるかもしれないって。謙虚だよなぁ」
と言いつつ見せてくれたのは・・・
「これ・・・ジロリチョコ・・・」
「謙虚だよなぁ。その謙虚なところがまたいいよなぁ」
近藤は悦に入っている。
「トシ、お返しは何にしたらいいと思う。やっぱりアクセサリーとかかなぁ」
「近藤さん。いい加減にあきらめたらどうだ・・・」


誰にしていいのか、考え付かずに結局一日を割って全員に出てもらいました。
最初は、銀ちゃん新ちゃんだけにしようかとも思っていたのですが、どうせだったら神楽の話も書きたいし・・・。
とするうちに、全員出てきました。来年は、誰かだけにしよう。
近藤さんは、もちろん落ちでしょうと思って、これを最後に書いたのですが・・・。かわいそうだったかなぁ。
体調を思いっきり崩したので、バレンタイン前に仕上げたにもかかわらずアップが遅れて痛恨でした。
来年は、早めにアップしよう・・・。                  20080223

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