それが真実じゃなくても


「おい、トシよ」
俺が近藤さんの所に転がり込んでまもなく、近藤さんは俺に言った。
「お前、生まれはいつだ?」
「さぁな」
俺は、物心ついたときから一人だ。
今自分がいくつなのかも、いつから年が上がるのかもわからねぇ。
近藤さんはひとしきりうなった後、
「年のころは、きっと俺の少し下くらいなんだろうな。誕生日は・・・、5月5日はどうだ」
「なんでまた」
「今日から数えて、大体2週間くらいだ。お前の誕生を祝う準備をするのにちょうどいいからな」
「祝うって、今できた誕生日をか」
「もちろんそうに決まってるじゃないか」
近藤さんはにかっと笑って答えた。
まったく、この人は相変わらずのお祭り男だ。
「総悟、ミツバちゃん。今の話聞いてたよな。お前たちにも祝ってもらうからな」
「えー、何でこんな奴の」
「そーちゃん、そんな事言ってはいけません。同じ道場で学ぶ仲間なんですから」
腕によりをかけましょう、ミツバはそういって笑った。綺麗な笑顔だった。
まぁ、いつもより優遇されて、いい飯が食える、そのくらいのことだった。誕生日は。

「トシ、今年も盛大に行こうな」
そして、今年も、そのときが近づいてきている。
「盛大にってかこつけて飲むだけじゃねぇか」
俺は、煙草に火をつけて言った。
「なに言ってんだよ。真選組の副長さんの誕生日だ。祝いたい奴はごまんといるだろうよ」
「じゃあ、隊長のあんたの時はもっと大変だろうよ」
「いや、俺はお妙さんにかくまってもらうから。大丈夫だ」
いや、返り討ちにあって、血祭りだろうな。と思ったが言うのはよしといた。
そして、当日。
「それでは真選組副長土方十四郎の誕生日を祝して」
「かんぱーい!!」近藤さんの音頭とともに盛大に始まった・・・酒盛りが。
隅でちびちび飲んでいた俺に山崎が気づいて駆け寄ってきた。
「副長!!今日はあなたが主役なんですよ。どうしてこんな所にいるんですか」
「いい大人が誕生日会ってことないだろうよ。これはただの飲み会だよ」
「そんなことないですよ。ただの飲み会ではここまで隊士はそろいません。あなただからですよ。」
「ふん」
「少なくとも、俺はあなたのために飛んで帰ってきました。おめでとうございます。副長。」
ああそうだ、というと山崎はなにやらポケットを探り出した。
「これよかったら。俺からのプレゼントです」
というと、おもむろに包みを俺に差し出した。俺が吃驚していると、俺の手の上にそれを置いた。
「開けてみてください」
早く早く、と山崎が急かすもんだから、俺はしぶしぶ包みを開けた。
「ほう」俺は感嘆の声を上げた。そこには、マヨネーズ型の携帯灰皿があった。
「副長はどこに言っても煙草を吸うから持っていたほうがいいですよ。邪魔にならない大きさだと思うんですよ」
確かに手になじみ、これといって邪魔になる大きさでも重さでもない。
「よく見つけてきたな」というと、山崎は笑って
「これ、オーダーメイドなんですよ」俺もちょっと作ったんですよ、というと山崎は微笑んだ。
「へぇ・・・」さすがは監察いろいろな情報を持ってやがる。
「ありがとよ、山崎。嬉しいよ」と、感想を素直に言うと
山崎はちょっと吃驚した後、満面の笑みで
「気に入ってもらえてよかったです」と言った。
「何ですかィ、土方さん。でれでれしちゃって」
「何だよ総悟」
「そんなににらまねぇでくださいよ」おー怖いと悪態をつくと
「俺からも、プレゼントでさァ」と言うと小さな箱を目の前に置いた。
「沖田隊長も優しいですね。副長開けてみてくださいよ」
山崎は自分のことのように喜んだ。が、俺には分かる、あいつが持ってくるものにろくなものがないことを
「・・・。おい総悟」
「ヘィ」
「今度は、何を入れてる」
「たいしたもんじゃございやせん」
いや、絶対たいしたものだ・・・。そう思うのだが、純真な目で見つめる山崎に負けてしぶしぶ箱を開けた。
中には、かわいいぬいぐるみが入っていた。
「なんだこれ」持ち上げたとたん、ぬいぐるみが火を吐いた
「あつっ!!!!」
「ふ、副長!!!」近くにあった水で、すぐに火は消えた。
「いやぁ、土方さんいつも煙草すってるから。ライターでもいいかなぁ、なんて思ったんですがねィ。火力強すぎましたねィ」
というと、黒い笑みを浮かべた。
「そうごぉ・・・」俺は、こいくちを切ると
「おまっ、ぜってぇ殺す」
「返り討ちにしまさァ」向こうもこいくちを切る。
楽しい祭りが一瞬で修羅場と化したそのとき、俺と総悟の顔の前に、短刀の切っ先があった
「今日は、楽しい祭りなんですから、熱くならないようにしないと」
山崎が仲裁に入っていた。伊達にミントンばっかりやってねぇんだな。
「・・・わかったよ」おれは、刀を置いた。総悟もそれに習った
「土方さんはきがちいさくていけねぇや」総悟はへらりと笑うと、行ってしまった。

「じゃあ、トシの誕生会だ」
あの時も、近藤さんが、音頭を取って始まった。
近藤さんは新しい竹刀をミツバは料理を、そして、総悟あいつは・・・。
「ほらよ」おれに、箱を渡してきた。
「開けて見ろよ」かわいくなくてかわいい少年を目の前に俺は箱を開けた・・・とたんに蛇のおもちゃが
飛び出してきた。
「おい、これ」おれは、いたって冷静だった。
「ふん。驚いたかよ!」というと、アカンベーをして行ってしまった。
「・・・」
「そーちゃんから、プレゼントもらいました?」と、ミツバが聞いてきた。
俺は、事の次第を伝えると
「まぁ、そうなの」と笑った。
「そーちゃんね。昨日まで毎日悩んでいたのよ。プレゼントをどうしようかと。
あなたはいつも表情が変わらないから吃驚させたかったんじゃないかしら。」
驚く顔がみたかったのよ。と言うと、笑った。
「そうだぞトシ。笑って泣いて、それでこそ人間なんじゃないか」
近藤さんも、笑ってた。それがはじめての誕生会だった。


「総悟」誕生会と言う飲み会は、もはやただの宴会になっていた。
「何ですかい」
「お前もあきねぇ奴だな」
「何のことかさっぱり分かりませんですぜィ」
「お前、本当に毎年ビックリ箱ばっかりくれるもんな」
「いい加減驚いたらどうでィ。土方コノヤロー」
「驚く前に死ぬっつんだよ」
「そのままくたばれば俺が副長なのに」
「へらねぇ口だな、相変わらず」まぁ、と俺は続けると
「ありがとよ、毎年」
そう、あいつは、毎年毎年俺の誕生日になるとビックリ箱を作って俺によこす
「あんたの誕生日は覚えやすいからねィ」
来年も、その次の年も必ず作ってもって行きやすぜィ、と言うとまじめな顔して
「だから、来年もその次の年もその次の年もずっとずっと、死ぬんじゃねぇぞ。土方コノヤロー」
ちょっと、面食らっていたがすぐに
「来年もその次の年もずっともらってやるよ。そして、ずっと冷静に受け止めてやるからな」
「ふん」
鼻で笑ったあいつの顔はもう、いつもの顔だった。

部屋に戻ると、あいつのビックリ箱を行李の中に入れた。そこには大小さまざまな箱。
この箱の分だけ、俺は年を重ねてきた。
俺が、安心して、感情をさらせる仲間とともに。
「来年は、どんな大きさの箱なんだか」
ふっと笑うと、煙草に火をつけた。


土方様の誕生日です。
当初の構想では、万事屋も招かれる予定でしたが、退ちゃんの一言で土山にしようかと思っていたのですが、
もともと、沖田のビックリ箱計画を考えていたので、沖田まで出てきて、
結局、これは土沖になってしまいました。
退ちゃんは私の頭の中を動きすぎる。さすが銀魂占いでこの人だっただけはある。
ちなみに、モデルになっている、土方歳三様5月5日誕生日です。ちょっとびっくりでした。
                                                         20080501

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