自分だけ特別な日


1週間前
副長と見回りに出かける。
「ちきしょーさみーなぁ」
「今年は寒波がこれでもかってくらい押し寄せてるらしいですよ」
「余計に寒くなるような事言うなよ」
「すいません」
並んで歩く副長は寒いと連呼していた。
誕生日のこと言いたいけど、無理やり祝ってほしくないし、目立ちたくもない。
ジミーとか言われているけれど、地味なほうが自分にはしっくり来る。
「早く屯所戻りてーなぁ」
「珍しいじゃないですか。仕事おろそかにするやつは切腹だって言ってるのに」
「屯所に仕事がこれでもかって位に待ってるんだよ」
あーさみぃというと
「月末は清算なんかが多いからな。俺で十分なやつがわんさかある」
「局長行きって確かに少ないですね」
「あの人にいく分はせいぜい総悟のバズーカ被害くらいだろうよ」
と言うと、肩をすくめた。
「そういえば、山崎経費早く出せよ。今日戻ったら持って来い」
「はいよ」
なんだか、誕生日なんですって言っていいものやら・・・。なんとなく気が引けて言えなかった。

3日前
夕食を食べていると
「山崎、経費出せって言ったろ」
「あ、すいません。ご飯食べたら出します」
「早くしろよ」
はぁ・・・、どうしてこうなんだろ、俺。悲しくなってしょげていると
「そういや、山崎よ。5日の夜は空いてるのか?」
「5日の・・・夜ですか?ええ、いますよ」
「そうか。頼みたいことがあるから、空けとけよ」
と言うと、返事も聞かずに副長は返事もせずに帰ってしまった。
どうして、5日?翌日だったら俺の誕生日なのに・・・。
言ってないもんな、知ってるわけないよ。まぁ、一つ歳を取るだけだから、別にいいんだけどね。
頭で割り切っていても、心は晴れるわけもなかった。自分が一番騙せないって本当だなぁ。

前日
そして、副長が用事があるといってた5日夜。
昼間の仕事もそつなくこなして、夕食を食べていた時、副長が来た。
「おう、山崎」なんだか、副長の表情が晴れ晴れしている。
「今日空けてあるか?」
「ええ、空けてますけど」
「おう、後でお前の部屋に行くから、待ってろよ」
「え・・・」
「返事は」
「はいよ」
つい、条件反射で返事してしまった。でも、どうして、俺の部屋なんだろう。
大体、用事を言いつけるなら、副長の部屋のほうがいいはずなのに。
食事を終えて、部屋で待機しているものの、どうしたのか副長が来ない。
あんなに晴れ晴れした顔であんなこと言っておきながら、放置かよ。一人で突っ込むと、
心配になったので、副長の部屋へ行った。
もしかしたら、これが目的なのかな。また、からかわれてるのかな。
寂しくなりながら、副長の部屋の前まで来た。
「副長、山崎です。」
「はいれ」
俺は、障子を開けると、文机の前で、書類とにらめっこしている副長がいた。
「わりぃ、予想外に仕事が回ってきやがった。終わったら絶対お前のところに行くから、もうちょっと待っててくれ」
そういいながらも、副長はこちらを見ない。きっと、振り返る時間も惜しいのだろう。
「・・・わかりました。」
来るって言ってるのに、なんだかひどい敗北感に襲われた。
あと何時間で、俺誕生日なのに。こんな扱われ方もない。
でも、仕事を第一に考える土方さんのことだろう、誕生日とかそんなことで、文句言ったら切腹だろうなぁ。
とぼとぼと部屋に戻る。
自分の部屋はいつも以上にがらんとしていて、寂しさをあおる。
真ん中で、丸まってごろごろしていると、
「退!!ごめんな!!お前を一人にしちまって!!」
と、土方さんが入ってきた。
「副長・・・?!」
副長は、優しく俺を抱きしめると
「誕生日おめでとう退。俺が誰よりも先に祝いたかったんだよ。」
「ふ、ふくちょ・・・・。」
俺は、土方さんに抱きついて泣き出してた。寂しかったのと嬉しかったのが入り混じる涙。
「ごめんな、寂しかったな。今日は朝まで一緒にいよう」
「土方さん・・・」
「さがる・・・」

「やまざきぃ!!起きろコラ!!」
「・・・ひじかたさぁん」
「あ?寝ぼけるのも大概にしろよ」
気がつくと、瞳孔を開いた鋭い目つきの男が俺の前にいた。
「え・・・?」
今までのは、夢?そりゃそうだよな。教えてないのに誕生日をあんなに熱烈に祝う副長を俺は知らない。
でも、うれしかったなぁ、優しい優しい副長・・・。
「おい、2度寝したら殺すぞ」
「うわぁ!!それは勘弁してくださいよ」
ところで、と俺は続けると
「頼みたいことってのは、なんなんです」
「ああ、酒付き合えよ」いい酒はいったんだよ、というと、一升瓶を持ち出した。
「あ!!」
「ん?どうした?」
「この酒!!おくぼの万勝!!ドンだけいい酒だと思ってるんですか!!」
「あ?そんなにいい酒なのか?この間接待で呑んだぞ」
副長は、接待が多いから弱いのにいい酒をよく飲んでいる、で、価値はさっぱり。
もったいなさ過ぎる。
「呑みたくても、高くて手が出ないんですよ。一回だけ祝いの席で飲みましたけど、あれは感動しましたね」
と、思い出に浸っていると
「現物が目の前にあるんだ、まぁ、のめや」
と、杯を俺の前に突き出した。
「い、いただきます」
俺は、恐る恐る口にした。
「う、うまい・・・」さすが万勝!!感動している傍らで、副長がどんどん杯をあおっていた。
「副長!!そんな呑み方したらもったいないですよ。もっと味わってください」
「それぞれ、酒の楽しみ方があるんだからいいんだよ」と、あっさりいなされた。
「いやーいい酒ですね。」
「ほら、つまみも食え。悪酔いするぞ」
と、軽食を持ってきてくれた。
「おいしそうですねぇ」
「俺が作った。」
「ほんとですか」すごいじゃないですか、と言うと、副長は自慢げに
「俺だってこのくらいできるんだよ」と、笑った。
二人で、他愛のないことを話して飲んで楽しいひと時だった。
「さて、山崎」と言うと、冷静な顔して、俺を見た。
「な、なんですか」
「今、何時だ。」
俺は、反射的に時計を見る。
「12時15分・・・ですね。」
「よし、もう大丈夫だな」と言うと、俺の目を見て、
「誕生日おめでとう、山崎」と副長はにっこり微笑んだ。
「え・・・」俺が困惑していると
「お、おい。違ったのか・・・。」
「いえ、あってますけど、何で知ってるんですか」
「隊士のことは俺が管理してるんだ、知らないわけないだろう」
俺は、隊士の出身から、血液型から誕生日から覚えてるからな。といって笑った。
「まぁ、いい酒も手に入ったし、一番最初に祝いたかったからな」
「え・・・」だから、副長は5日の夜の予定を聞いたのか、そのまま6日になるように。
俺は、真っ赤になりながら
「・・・ありがとうございます。俺嬉しいです」
こんなことまでしてくれて、どうしてこんなに副長は優しいんだろう。
「他でもない、お前の誕生日だからよ。きっと朝まで待ったら総悟が嫌味ったらしく俺の目の前で祝いそうだからな。俺が誰より先に祝うって決めてたんだよ」
「副長・・・」
「山崎、顔赤いぞ」
「副長こそ」
「酒のせいだ」
「俺もです」
と言うと、顔を見合わせて笑った。
「明日休ませてやろうかとも思ったんだが、誕生日だから仲間に囲まれてた方がいいかと思ってな。軽めの仕事に抑えてあるから、一日誕生日を満喫しろ」
「ありがとうございます」
「お前が思うより、みんなお前の誕生日を知ってるし、祝いたがってるんだよ」
「え?」
「義務とか、そういうことじゃなく。心からおめでとうを言いたいとみんな思ってるって事だ」
「・・・俺幸せです。いい仲間にいい上司にいい部下に囲まれて。」
そういう俺を、土方さんは嬉しそうに微笑んで見つめてくれていた。
翌日は、同じ観察の仲間から、沖田隊長から、局長から祝ってもらった。俺は素直にありがとうと言った。
副長が言ってくれなかったらきっと素直に受け入れることができなかったと思う。

そうして、数日後。
「あ、山崎さん」
「新八君、久しぶり」
「先日、誕生日だったんですよね。おめでとうございます。」
「え?何で知ってるの?」
「土方さんが教えてくれました。お酒は間に合ってましたか?」確か万勝でしたっけ?と言う新八君に
わけがわからず
「どういうこと?」と聞くと、事のあらましを新八君は教えてくれた。

「土方さんじゃないですか」
「おお、お前万事屋のところの志村って言ったっけ」
「新八で良いですよ。みんなそう呼びますから。よく覚えてくれてましたね。」
「仕事柄、そういうことはすんなり頭に入ってな。」
というと、酒屋のウインドーを見る。
「お酒買いに来たんですか?」
「ああ、でも、こういうところにあるのはもう、味が落ちてるらしい。本当は産地直送が一番らしいんだが・・・。」
「そうなんですか」
「ああ、山崎はあれで酒は詳しいし強いからな」
「??山崎さんへのプレゼントなんですか?」
「てめっ、何でそのこと知ってるんだよ」
「今、山崎さんの名前出てましたから。土方さんはそこまで強い人じゃないって銀さん言ってましたから」
「・・・」土方は思わず赤面した。そうして、苦々しく口を割った。
「いや、な。誕生日近いからどうにかして産直の酒でもと思ってな。万勝は特に、あいつ呑んで感動しててな。でも、酒屋にある酒は日がたってるから味が落ちるって。でも、もう一回呑みたいって言ってたんだよ」
「そうなんですね。だったら、ネットで頼むとか。今はネット茶屋とかありますから。」
「そうか・・・それでも良いかもな。酒屋だと屯所戻る途中で襲撃されたら終わりだからな」
「確かに、危険なお仕事ですもんね」
「まあ、それに、身内に襲撃されるからな。」
「はは・・・」確かに、その確率のほうが高いだろうなぁ、と新八は苦笑した。

「・・・ということなんです」
「でも、俺には、たまたま手に入ったとか言ってたのに・・・」
「うーん、本当のことを言うのは照れくさかったんじゃないですか」
「それに、万勝の話だってだいぶ前に一度言ったきりなのに・・・。」
「覚えてることには意味があるんですよ。」土方さんなりの、ね。と言うと、新八君は笑った。
「僕も、銀さんの言ってたことは大概覚えてて、依頼料が入ると御褒美に出してますから。」
「・・・?」
判らない顔をしていると、新八君は俺にそっと
「大事って事ですよ」と耳打ちした。
「ま、まさか俺みたいな地味な人間副長が大事にしてるわけないですよ」
「そんなことないんじゃないですか」
と新八君は微笑むと、
「僕だって、地味ですけど、銀さんに大事にされてますし、大事にしたいと思いますから。」
「でも・・・」
「山崎さん。もっと自信を持ってください。土方さんが山崎さんのことを話すとき随分嬉しそうな顔してましたよ」
まるで、銀さんが僕を見るようでしたから。と新八君は言った。

新八君と別れ屯所に戻ると俺は副長の部屋に向かった。
「副長、山崎です」
「おう、入れ」
襖を開けると、相変わらず文机に向かって仕事をしている副長がいた。
「副長、先日はありがとうございました。わざわざ取り寄せてくれたんですね。」
「あ?何のことだ」
「万勝ですよ。あんなにうまい酒、本当に久しぶりでした。今日新八君に会ったんです」
「・・・」副長は何も答えてくれなかった。
「俺知らなかったから・・・。すごく嬉しかったです。俺、副長のために、陰になり日向になります。がんばります」
「新八から、聞いたか・・・、あのおしゃべりめ。まぁ、お前が喜んでくれたなら、俺は嬉しいよ」
副長は振り返ると俺に微笑んでくれた。
「はい!!ありがとうございました。それでは、失礼します」
これからも仕事をいろいろなことをがんばれそうな気がする。こんなにいいところで働けるんだから。
副長のために、真選組のために、がんばります。決意を新たにできる、そんな誕生日だった。

「おい!山崎ィ!!」「はいよっ」


2月6日 山崎退さん誕生日です。
元々、銀魂占いがザキだったのと、土方さんの命を受けて飛び回る姿に自分の仕事の姿を重ねたあたりから
退ちゃんは大事な子になりました。
ぜひとも誕生日を祝わなければという事で、土方さんにいの一番に祝ってもらいました。
本当は、誕生日を祝った後に、素直に土方さんから酒を取り寄せたというつもりでしたが
土方さんみたいな硬派な人がそんなことできるか?と思い、しんぱっつぁんをだしました。
地味同士花見しかりカブトしかりこの二人のほのぼの感も好きです。
濃いキャラクターの中で冷静に事を見てしまうって言うポジション。いいですよねぇ。
6日は平日で多分ネットに入れないだろうから、今のうちにあげておきます。                 080202

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