其の事ばかりを想って 悲恋編(完結)

二人がすれ違ってしまって、からどのくらいたったのだろう。
真選組はにわかに忙しくなった、そのため屯所を空ける人が増えた。
狙いはそこだった。武装警察真選組。彼らが根城への攻撃。それが目的だった。

「副長!!大変です!!」
山崎が土方に駆け寄る。蒼白の顔面にその度合いが伺える。
「山崎、どうした。」
「それが、ハァ、と、屯所が・・・、屯所がやられました!」
息を切らしながらもその事を伝えた。土方は全身が怒りに震える。
「屯所の状況はぁ!!」
「はいっ、こちらも残りの隊士が応戦しておりますが数も能力もかなりのものでして」
「チッ・・・、道理でこっちは腰抜けばかりか」
最近、手ごたえのある奴とやってねぇ。何かある、そう睨んではいたが、そういうことだったか。
と、同時に頭に浮かぶ姿。ツキヨミ・・・。そこにはあいつがいる。
まだ、わびの言葉も自分の気持ちも何も伝えてねぇ。あいつに何かあったら。
「ここは頼んだ!俺は屯所に戻る!屯所の加勢に入る!」

その頃屯所は襲撃に防戦一方で下がる事しかできなかった。
「ツキヨミさんはここに隠れて、でてきてはだめですよ。」
「ここは俺らに任せてください、武装警察真選組はだてじゃないですから。」
「みなさん・・・」
というと、小さな部屋に入れられた。ツキヨミは願った。
「皆さんを、土方さんをお守りください。神様」
土方さん、怪我してないだろうか。私にできる事は祈る事くらい。生きていて、土方さん。
部屋の外では、いろいろな音がする。驚き、声を上げそうになるが、回りに気づかれまいと
必死で口を押さえてこらえた。私が捕まったら真選組の皆さんに迷惑がかかる・・・。
助けて、土方さん!!!
と、その時、「ツキヨミ!無事かぁぁぁぁぁ!!」
誰よりも、誰よりも聞きたかった声。その人は私を呼んでいる。
「土方さん!!」無意識に、その人の名前を呼んでいた。「土方さん・・・」生きていたんだ。

「ツキヨミ!!」確かに俺を呼ぶ声がした。土方さん、と。
あいつらが隠すとしたら、あそこだ。そう思い、そこへとんでゆく。しかし、目に映ったのは、
「鬼の副長があきれるな。」
敵に、捕まっていたツキヨミだった。「土方さん!!こないで!!」
俺の名を呼んだその時、敵に気づかれツキヨミは捕まってしまっていた。
「副長さんよぉ、この子がそんなに大事かい。」
俺は、刀を構える、ツキヨミを助けるため。誰にも渡さない、俺の宝物。
「刀をしまえ。こいつを切るぞ」
敵の刀は容赦なくツキヨミにかかる。
「くっ・・・」俺は、刀を鞘に収める。その時、ツキヨミが叫んだ。
「土方さん。私にかまわず切って、屯所を守って!!」
「黙れ、小娘!!」敵に殴られるツキヨミを見た瞬間俺の中で何かがはじけた。
理性を軽く吹っ飛ばした俺が次の瞬間目にしたものは、敵の亡骸と、生きているツキヨミ。
殴られたところがあざになっている。
「ツキヨミ!!無事だったか」俺は駆け寄る「土方さんこそ、良くぞご無事で」
あいつは泣いていた。でも、笑って泣いている。
「泣くな、お前の笑顔が見たい」そういうと、俺は涙を掬った。
ツキヨミが笑顔になりかけたその瞬間、「土方さんあぶない!!」
油断した俺の後ろから切りつける敵、間に合わない、と想った瞬間俺の前に立ちはだかるツキヨミ。
そして、真っ赤になって、倒れてゆくツキヨミ。俺は、敵をなぎ倒すとツキヨミの元へ。
「ツキヨミ!どうして、どうしてだぁ!!!」
「土方・・・さん。無事ですか。」あいつは、にっこり微笑んだ。
「愛しい土方さんが無事なら私は幸せ。あなたが生きていてくれれば・・・。」
イトシイ・・・。俺をか。すべては俺の勘違いだって言うのか・・・。
「ツキヨミ!死ぬんじゃねぇ。俺がゆるさねぇ。愛しいお前がいなくなるなんて許せねぇ」
大粒の涙がこぼれる、誰が見たって、かなりな深手だ。助かる可能性なんて・・・。
「あり・・・が・とう。愛し・・いと・言ってく・れて」
あいつは、太陽より月より優しく眩しい笑顔。「クソッ、早く病院へ・・・」
「いい・・の、あな・・たの腕の・中で・眠り・・たい」
ツキヨミは俺の頬に手を当てる。その手をつかんで、俺は叫んだ。
「バカなこと言うなよ、生きるんだ、ツキヨミ!!助けてやるから・・・」
「あり・・がとう、ひじかた・・・さん」俺を見つめて微笑むと、それっきりだった。
それっきり、ツキヨミは人ではなくなった。
俺は、人目をはばからず大声で泣いた。愛しい人の抜け殻を抱きしめて生まれたときより泣いた。

あれから、1週間が過ぎた。
屯所を襲った奴らもみな逮捕され、屯所を直し、すべては日常に帰っていった。ツキヨミがいない事以外は。
近藤さんの命令で、俺はツキヨミの遺品の整理をした。どこへ送るのか聞いたら
「あいつはな・・・」と、ツキヨミがここに来る前の話をしてくれた。
ツキヨミの両親は生活苦に疲れてツキヨミを残して、自殺した。親戚に引き取られても奴隷扱い。
食い扶ち減らしに真選組に預けられた、と。
あいつが、屯所を守ってといった意味が痛いほどわかる。ここを実家のように思っていたのだろう。
みんなを家族のように思っていたのだろう。あいつが一人で抱えていたものの大きさに涙が出そうになった。
ツキヨミの荷物はそんなに多くはなかった。「ん?」なにやら包みが押し入れの奥にある。
その包みの上には手紙があった。《土方副長へ》封筒にはそう書かれていた。
「俺宛か・・・」俺は、手紙を読み出した。

≪土方様・・・≫
最近お忙しそうですが、お体の調子はどうですか。あまり無理をなさらないでください。
私が真選組に入ってもうそろそろ1年になります。
皆さんはとてもいい人で、身寄りのない私にとってかけがえのない家族のような存在です。
マスコミや真選組をよく知らない人は誹謗中傷もするでしょう。
でも、私にとって真選組は優しくて頼りになって、何を言われようと江戸のために尽力する立派な存在です。
お互いがお互いをわかっていられるから何があっても絆は揺るがないのでしょう。
特に、土方さんは、鬼の副長といわれながらも、人望厚く皆さんに慕われている人で、
怖そうなイメージとは裏腹に不思議な魅力で人を惹きつけそして、裏切らない人だと思いました。

「不思議な・・・」俺は、ツキヨミと話した事を思い出した。『不思議な魅力のある・・・人です』
あれは、俺の事だったのか・・・。どうして、あの時そういってくれなかったんだ。俺は続きを読んだ。

土方さんの近くにいるだけで私は真っ赤になってしまい、恥ずかしくて、顔も見れないほどです。
いつの間にか私もあなたの魅力に釘付けで、そして、・・・愛しいと思いました。
あの時、きっと土方さんは勘違いされていたんだと思います。私は、誰よりもあなたしか見ていなかった。
否定しようにも混乱した私に声も出なくて、土方さんを傷つけて、申し訳なく思っています。
逢えない事が続いてしまったので、手紙だけでも読んで貰おうと今これをしたためております。
もう、遅いのかもしれないけれど、本当のことを話しておきたかったのです。
あなたを愛しております、これからもずっと。かなわないのはわかっていても、伝えようと思います。
そして、もしこの手紙を受け取って私と話をしていただけるのであれば私はとても嬉しいです。
それまでどうかご無事で、屯所に戻られる時を楽しみにしています。
                                    ツキヨミ

涙があふれた、傷つけたのはこっちなのに・・・・。ツキヨミに逢いたい。でも、もうどこにもいない。
「見ちまいましたかぁ」振り返ると総悟が立っていた。
「テメェ、いつからいた。」
「手紙を見始めた頃からでサァ、土方さんその包みをあけなせぇ」
総悟に促されるままに包みを開けると、そこには毛糸のマフラー。
「ツキヨミがあんたに作っていたものでサァ」
「っ、何でお前そんなこと・・・。」
総悟はすべてを話した。ツキヨミが土方を好きな事を知っていた事。
繕い物を部屋へ頼みに行くと必ずマフラーを編んでたこと。
誰に渡すとはいってなかったが、土方さんへのものだとわかっていた事。
「どうしてわかる。」
「色でサァ、その人に似合う色を精一杯選んだとね、それですべてがわかったんでサァ」
俺に似合う色。確かに、この色は俺も大好きな色。
「ツキヨミが土方さんを好いてる、といえば簡単だがツキヨミがよろこばねぇ。
だから、あんたから事を起こすように俺は、わざとツキヨミをからかったんでサァ」
そうすれば、あんたは嫉妬して、ツキヨミに近づくだろう、と。
すべては最初から、小さなボタンの掛け違い。俺は・・・、おれは・・・。
また、涙があふれた。「そんなこともわかんなかったんでサァ、土方コノヤロー」
総悟は寂しげに言い残し出て行った。俺は、止まらない涙を抑えずにその場にとどまっていた。

懐かしい匂いと気配に俺は目を覚ました。泣いたまま眠るなんて・・・。
ツキヨミの気配がする、ツキヨミの匂いがする、俺は、自然とツキヨミの墓に足を向けた。
「ツキヨミ、手紙も想いもマフラーも受け取ったぜ。一生大事にする。約束する。」
一生・・・、本当はツキヨミに言いたかった言葉。
その時ふわっと、暖かな風が吹いた、そして不意に『どうかご無事で、土方さん』という声が聞こえた。
「ツキヨミ!!」見上げた空にあいつの笑顔が見えた気がした。
お前の分まで生きて、ここを屯所を守って、江戸を守るよ。約束する、想い出の場所を誰にも汚させない。
少し、墓の前で何も言わずとどまると「いってくるぜ、ツキヨミ、見守ってくれよ」
と、仕事へ戻った。今日も、いい天気だ・・・。
END


少々言い訳を・・・。
本来は、悲恋編を作る気はさらさらありませんでした。むしろ助けに行った後はそのまま鎮圧して、
お互いの気持ちを知って、ハッピーエンドだったのですが、
助けて、二人で笑いあった瞬間に敵が出てきたんです。
それでも最初は土方さんが傷を受けて、それでも相手を倒して、ツキヨミの腕の中で、気を失って、
意識を回復すると病院で、ツキヨミがずっとそばにいた、的な話を考えていたのですが、
ツキヨミちゃんが出て行ってしまったんです。不可抗力というかなんというか。まさか、こんなに早くから
勝手に動き出すとは思いませんでした。
で、このとき、あまりにも大好きな土方さんを泣かしたので、お詫びにアナザーストーリー考えたら
以外にツキヨミちゃんが動き回ってくれるものだから、そのまま連載にしてしまいました。
クリスマスネタ、今考えております。
作中ででてくる編み物は私の趣味です。寒い冬マフラーの一つでも編んであげたいもんなんですよ。
                                                        11/11

つけたし
一応、ツキヨミの設定を考えたものの、この話の中だと逃げてきたのではなく預けた事になってますね。
一応この話はここで終わるので、この話はこのままで、続くほうにその設定を生かすようにします。
というか、連載すら考えてなかったから、これを書いた後に設定を書いてるんだよねぇ。
そりゃ、初期と設定も変わるわなぁ。
12/2
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