そんな昔話


「お登勢さん」
呼ばれて振り向くと、万事屋に助手として入った男の子が立っていた。
「おや、新八じゃないかい。どうしたんだい。」
「この間いただいた、煮物のお皿返しにきました。いつもありがとうございます」
「ああ、あんたの煮物もなかなかのものじゃないかい。」
と、ひとしきり話をした。
「そうだ、新八」
「どうしました、急に真剣な顔して」
「ああ、ちょっと昔話でも聞いていかないかい」
「え、ええ、いいですけど。」
不思議そうな顔をしてこっちを見ている、それはそうだろう急に昔話だ。
「あたしが、亭主の墓参りに行ったときに、亭主の饅頭を食った男の話は覚えているだろう」
「あ、それは・・・」
銀時の名前が出る前にあたしは話を進めた。
「その男のその後の話さ」
というと、あたしは、その男の話をし始めた。

その男はうちの2階に住み着いて、その日暮を続けていた。
仕事なんかしないし、家賃も借金も踏み倒し放題。たまにふらりと出かければ、血まみれになって戻ってくる。
ろくでなしのごくつぶしだった。
そんなあいつを見るに見かねて、あたしは少し説教した。
「そんなことしてないで少しくらい働きなよ。あんたこのままじゃだめになるよ。」
あいつは、何も言わなかった。
「生きながらにして死んだようなことするんじゃない。生きたくても死んでゆくやつもいるんだから。」
「わからねぇ」
うつむいたあいつは、ぼそっと呟いた。
「どうした」
「俺はどうして生きている。どうして、生き続けている。あの戦いの中で仲間はどんどん死んでいった。でも俺は生きてる」
死んだ魚のような目であたしを見上げると、うわ言のように呟く。
「あんたは選ばれたんだろうよ」
「選ば・・・れた」
「この世界の行く末を見るように、仲間の分までこの世界を見るように」
「何で俺なんだよ。俺はみんなにおいていかれただけだろう」
「馬鹿なこと言うんじゃないよ!!」
怒鳴ると、あいつは顔を上げた。
「そんな腑抜けにこの世界を任せて他の奴等が死んでいったわけじゃないだろう。あんたには特別な使命があるんだろう。」
「使命・・・」
「他の仲間を見守るとか、この国の行く末を見つめるとか。大きくなくてもいい、あんたが生きてるのには理由があるだろう」
「・・・」
少し考えていたあいつはおもむろに
「ひとりにしてくれ」
と短く言うと部屋にこもった。
「食事おいてくよ、ちゃんと食うんだよ」
というと、あたしも出て行った。

翌日、珍しくあいつは朝から店に顔を出した。
「ばばぁ、いるか」
「なんだい朝から騒々しいねぇ」
あいつの顔はそれまでとは違い晴れ晴れとしていた。
「俺ぁ、決めたよ。万事屋をやることにした。」
「万事屋?また、どうして。」
「俺は先に逝ったにやつらの分までこの世界を見てやる。そのためにはなんでも屋になって何でも見ていこうと思う」
「ふふっ、単純なやつだねぇ」
「うっうるせいよ、そこでばばあ、俺が万事屋始めたって事を触れ回ってくれよ。客つかんだらそこから発展させる」
「はいはい、客や商店街のやつらにも話しておくよ。そのかわり」
何だという顔をして、こっちを訝しげに見るあいつに
「商店街の仕事もしてもらうよ。ここで仕事をする以上、それはここで生きるうえの義務だからね。」
その言葉を聞くとあいつはほっとした顔で
「なに言い出すかと思ったら。わかってるよそのくらい、やってやるよ。」
そして、あいつは万事屋を始めたんだ。
とは言っても仕事なんて来なくて、自分からとりもしないでやっぱりごくつぶしだったんだけどね。
力仕事も何でもそつなくこなすわりに、何が気に食わないのかすぐに揉め事を起こす。

「何がそんなに気に食わないんだい」
がんばっているようなのに、何が悪いんだろうねぇ、そんなことを思いながら聞いてみると
あいつは、ご飯をほうばりながら
「別に、俺は人付き合いが苦手だからね。」
さらっと言ってのけると、無言でご飯を食べた。
「一人生きれる金はあるんだからいいんだよ」
「じゃあ、家賃よこせ」
「無理」
「働けばかやろう!!」
働く気があるのかないのかさっぱりわからなかった。何を思ってどうしたいのか表情から読み取れない。
また、堕落な生活に戻るつもりなんだろうか、そう思った矢先に、万事屋に人が増えた。
眼鏡をかけた真面目そうな少年だった。
その少年が来てから、あいつはごくつぶしよりか少しはましになった。
「最近どうしたんだい、ずいぶん最近真面目になったじゃないか」
「ああ、あいつに不甲斐ない姿は見せられないからな」
「あいつ?」
「ああ、俺の助手。新八って言うんだ。俺に何かを見たらしい」
というと、照れくさそうに
「そういって俺のところに来たやつにあそこまでのろくでなしの姿は見せられないからな」
と笑った。
「へぇ」
「何だよ」
「あんたも、笑うんだねぇ。あまり見たことなかったよ。」
「う、うるせいよ」
「それに、人付き合いは嫌いなんじゃなかったのかい」
「あいつは人付き合いとかじゃなくて、どんどん入ってきて、俺に説教かますんだよ。母ちゃんみたいだよ」
俺よりずっと年下なのに、というと
「俺が今生きている理由はあいつに会うことだったのかもしれない」
と呟いた。
「また、そりゃどうしてだい」
「あいつに出会って、俺の中でいろいろなことが変化しているんだよ。それと同時に新八の中でも何かいろいろ変化が起きてるらしい」
あいつは、嬉しそうに
「きっと出会うべくして出会ったんだよ。二人でいれば、いろいろな変化が起こるんだよ。新八にいろいろな変化を起こすことが俺の使命なんだと思うんだよ」
「よかったじゃないか、そんなやつに出会えて」
「ああ、でも、ちょっと不安なこともあってな」
「ん?なんだい?」
「いつかあいつが離れて行ったらどうしようかと思うと怖くて怖くて・・・な」
「なんだい、そんな事かい」
「そんなことってなんだよ!俺は真剣なんだぞ!」
あいつは、声を荒げた。
「離れるなって言えばいいじゃないか。そばにいてくれって言えばいいじゃないか。」
「え・・・」
「素直にそのままありのままを伝えればいいだろう、真剣な思いは相手にも伝わるよ。」
それにとあたしは続ける
「言葉なんかどうでもいい。必要なのは想いだよ。必死の想いは必ず伝わるよ」
ちょっと考えると
「わかった。」と一言だけ言って
「ごっそさん。仕事いってくらぁ、ばばあ」
といって、店から出て行った。

「・・・とね、こんな昔話さ」
「それってずいぶん最近の話でもないですか」
「おや、そうかい」
というと、タバコの煙を吐き出した。
「なぁ、新八」
「はい?」
「銀時から離れないでやってくれないかい。あいつがまともになったのはあんたが原因の一部だと思ってる」
「・・・・」
「あいつは言わないかもしれないけれど、大事にしてるんだよ」
「わかってます」
新八は、顔を赤くしながら
「銀さんは僕らのことを大事にしてくれてます。僕らが銀さんを大事だと思うくらいに」
「ああ」
「銀さんが雇ってくれる限り僕は万事屋に来ますから。銀さんのそばにいますから」
安心してください、というと新八は笑った。
「頼んだよ」
あたしも、笑顔になった。
「おーい新八、まだかー」
「あ、銀さんと夕食の買出しに行くんだった。」
「悪かったね、早く行きな」
「はい、・・・お登勢さん、その・・・」
「なんだい?」
「昔話ありがとうございました。」新八はぺこっと頭を下げた
「ああ、銀時には内緒だよ」
「もっもちろんです」というと、もう一度頭を下げて
「すいません銀さん!!」と銀時の元に走っていった。
血もつながらない、年もぜんぜん違う、でも、みんな絆という糸でつながる。
つながった先に何があるのかは見てみないとわからないけど、楽しい毎日がつながっている、そう思った。


という事で、珍しく新八しかでません。
こういう話をできるのは新ちゃんだけかと。万事屋で、唯一の突っ込みキャラ。
だからこそ、お願いしたいんだろうと思って、こんな事かいてみました。
みんながみんな大事だと思ってそうだから、この人たちは。
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