コイビト


コイビト・・・、そう呼ぶにはあまりにも殺伐としていて、ライバル・・・、と呼ぶにはアイがあふれすぎている。あいつとオレはそういう仲。それ以上でもそれ以下でもない。
それが当たり前だと思っていた、あの時までは・・・。
その日、アイツは元気がなかった。俺を見ても喧嘩する気もないらしく、隣に座ると溜息をついた。
「なんでェ」
俺が話しかけても返事はなく溜息ばかりついた。しばらくすると、やっと口を開いたが耳を疑う言葉だった。
「もう、お前とは戦わないネ」
「何でィ、たちの悪い冗談でさァ」茶化してみても、アイツは動じない。
「お前の勝ちで良いアル。もう、総悟の顔なんか見たくもないアル!!」言い捨てると走り去ってしまった。
オレの事を総悟と呼んだ事と、戦わない、負けでいいというアイツの思考がわからずに、オレは呆然とアイツを見送ってしまった。まるで、自分の中のすべての機能が止まって白い世界に取り残された感覚。・・・絶望?
混乱した頭を抱えながらぼやっと日暮れまで公園で過ごしていた。
考えてみりゃ、いろいろな偶然の重なりで力量が同様の女(まぁ、天人だが)と出会って、毎日顔をあわせれば喧嘩ばかり。でも、毎日会わなきゃ体が歪んでるような半身もがれたような気持ちになる。
そして、アイツとの対決を快く思っている自分がいた。こいつと手合わせしいるとき程心が穏やかなときもない。
『総悟の顔なんか見たくもないアル!!』思い出すと、心臓に針が刺さるように痛んだ。
好きなんだと気付いたのは失った事を理解したときだった。当たり前が目の前で崩れ去っていく。
笑顔で勝負を挑んでくるアイツは何を思っていたのだろう。ライバル・・・、はオレの独りよがりだったのか?
濁った頭をもたげてふらふら立ち上がると、あてもなく歩き出した。こんな面土方のヤローに見せたら、何言われる事か。屯所にはまだまだ戻りたくない。
そんなことを考えていたら、目の前に万事屋の看板。ちょっと考えた後、大きく深呼吸をすると戸を叩いた。
時間が時間だったのだろう、食事の準備に追われる新八は接客ができない、ここの旦那がでてくる事もない、
消去法ででてきたのは、「ハイヨー、何アルカ。新聞ならいらな・・・」
「よぅ。」極力普通の顔をした。でも、普通の顔に見えたのだろうか。
「何アルカ。冷やかしならもっとお断りヨ」オレを睨めつけた。
「違う。決闘の申し込みをしにきたんでィ」
「もう、戦わないと言ったアル」冷たく、抑揚のない声が突き刺さる。オレが、こいつをそうさせたのか?
「最後だ、決着つけましょうや。勝手に決めて逃げるのは卑怯でィ」
アイツは俺の顔を見たり、あれこれ考えているようだ。暫くすると、
「いつアルカ」と、言葉少なに返ってきた。
「明日、いつもの時間」毎日同じ時間にやりあっていたんだ、わかるだろう。
「いいアル。せいぜい鍛えておくヨロシ」というと、ぴしゃりと戸を閉めた。
それからも、ずっと考えていた。あいつの言動の理由、あの冷たい表情の理由。
そして、オレから、離れようとしている理由・・・。考えれば考えるほどわけがわからない。答えは明日出るだろう。もう、二度と会えないだろうけど。自分が招いた事なのだろう。アイツにあんな顔させてあんな声出させたのも。
でも、いまさら気付いた、オレの気持ちにもアイツ気付いてくれるだろうか。まぁ、無理だな。
翌日、アイツは来た。いつもと同じ時間に、違う気配を纏って。いつもの手合わせのレベルではない、という気配だ。
毎日喧嘩しに、この公園に来ていた。そこからして、オレはアイツに惚れていたのかもな。ふと思った。
「始めるアル」「最後のバトルでサァ」
カサと刀を交える、熾烈でそれでも心が穏やかになる戦い。気合十分、実力も互角。細胞の一つ一つが生きてる事を
実感できるくらいの小気味いい緊張感。アイツの表情を盗み見た。
「?」どうして、涙をこらえた顔で戦ってるんだ、いつも笑ってなかったのか?どうして・・・。
「スキあり!!」簡単に足元をすくわれ、倒れた俺に馬乗りになって目の前にカサを構える。
その顔は、今にも泣き出しそうで、戦いに勝利した顔には到底見えない。
「チャイナ・・・?」目の端にたまっている涙を掬うとそれが合図のように涙がこぼれた。
「手加減カ?最後なんだぞ。バカにすんなヨ」涙を微塵も気にしないで、悪態をついてきた。
「違いまさァ」あいつの腕をつかんで俺の胸の上に引き寄せ抱きしめた。
「あんたの涙に見惚れちまってねェ」最後だし、言いたいことは言っておこう。
「あんたに惚れてまサァ、ずっと前から」気付いたのは昨日ですがね、と付け加えた。
「鈍いんだよ、サドが」アイツは俺の胸で泣きながら悪態ついてきた。
そのうち、ポツリポツリとアイツは話し出した。夜兎の女は戦いの中で恋人を伴侶を見つけること。
同じくらいの能力を持ったもの同士、戦いの中で惹かれて戦いの中で結ばれていく。
「総悟はやっと見つけた年の近い能力の近い男だったヨ。最初は本当に嫌いだったけど、刀を交えるのはむしろ楽しかった。そのうち、これが恋だと思ったアル。でも・・・」
「でも?」何かあったのか?他の男ができたとか?
「総悟はおしとやかな女がいいって・・・」
そういえば少し前にそんな話をこいつとした覚えがある。姉上を考えてそんなこと話したような。
俺の上にいるアイツは俺に見られまいと胸に顔をうずめて
「アタシには、それは無理ネ。怪力だし、大食いだし。だったらいっそのこと会わないでいたほうが楽ネ。」
肩が震えた、そういうことを考えるだけでも、悲しかったのだろう。
俺は知らない間に、悲しませて傷つけていたんだ。何気ない押し付けがアイツを苦しめた。
「すまねェ」自然と言葉が出てきた。
「失いかけて、初めて気付きましたァ。オレァ、本当に鈍いやつでサァ。」
オレは、アイツを抱きしまたまま、半身起して、アイツの顔を見た。涙が止まらない。その涙に口付けて
「惚れてますぜィ。神楽」
「アタシも・・・、好きヨ。総悟」泣きながら、笑った。それを単純に綺麗だと思った。
そのまま、オレはアイツを抱きしめた。少しして、思い出したように
「もう、会わないとか、言うなよ」
「もちろんアル。もっとキヅナ深めるために戦うヨロシ」
「もう、嫌だとかいってもはなさねーからな」
土方さんや近藤さんとは違ったこいつだけに感じる暖かさ、安心感。これを恋と呼ぶのか。
昨日、今日、明日・・・一生をともに生きたい。一緒にいたい。
なんてぼんやり考えていると、オレの腕の中で、
「総悟は・・・」とあいつの声が聞こえた。恥ずかしいのか、その先が出てこない、そのうちか細い声で
「−−−−−」
アタシの恋人・・・アルな。と呟いた。
オレは、アイツの桃色の髪を優しく撫でながら「もちろんでサァ、オレは神楽の恋人でサァ」と言った。
アイツは安心したように、うずくまった。
「日も、くれちまいましたねェ」「そうアルな。」「土方さんに怒られちまう」「銀ちゃん心配するアル」
「じゃーな。」俺たちは背を向けて歩き出した。背中の方から声がする。
「明日も」「「この場所で。」」


背景としては、ちょっと前に好きなタイプの話をしたんです。沖田さんは何も考えず、
お姉さんの話をしてしまうんです。理想だと。それを聞いて、神楽は胸を痛める。
で、今回のような事になってしまう、ということ。
神楽ちゃんには沖田さんだと思うんですよね。この二人は大好きです。
                                                            2007.10.21

いずれかは、もう少し読みやすいようにしようと思います。
今は、この形に統一。                                              08.02.02

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