恋というものは

僕がもう少し積極的だったら、僕がもう少しかっこよかったら、僕がもう少し地味じゃなかったら
あなたは僕を好きになってくれましたか?

屯所で飲んでいるときに、急に局長に言われた。
「ザキ、恋はいいぞ。お前は恋をしているか?」
ドキッとした。恋はしているのだが、かなうものではないと思っているのだ。
だから誰にも言わずにそのまま今のままでいいのだ。そう思っていた。
「いませんよ。仕事が一番ですから」
「何でぃ、つまらないねぇ山崎は」沖田隊長も絡んできた。
「仕事は面白いですから。別につまらなくないですよ」
「女中のあの子なんてどうだ。あの子彼氏いないっていってたぞ。えーと名前はなんていったかな」
「織江ですかい?」
胸が高鳴る。織江さんは俺の想い人。可愛くて優しくていつも笑顔で、僕なんか選ぶわけないくらいの人。
「織江さんは、彼氏いるんじゃないですか?」
「いや、職場で彼氏を見つけたいって言ってたらしいぞ」
「また、織江さんだったら彼氏の一人や二人すぐに見つかりますよ」
そういうと、その話から目を逸らすように酒を飲んだ。

織江さん・・・。本当は好きなのにそれをどうしてもいえない。
人当たりだけはいい僕に、笑顔で接してくれる織江さん。
だから、気持ちを話したら今の関係が壊れるような気がしてそれが怖かった。
「織江さん・・・」
なんとなく、一人で酒が飲みたくて外にふらりと出て行った。
目に付いた居酒屋に入ろうとしたら同じタイミングできれいな銀髪の男に出会った。
「旦那・・・」
「あれっ?ジミーじゃん。珍しいなお前が一人なんて。」
地味だ地味だという割りに旦那は僕のことを覚えていてくれている。
「・・・旦那、一人ですか?」
「ああ、たまにはちょっと酒でもと思ってね。」
「旦那にちょっと依頼したいことがあるんですが」
「これから飲みたいんだから、受けないよ」
「飲みながらでも大丈夫ですよ。お礼はここの代金ってことでどうですか?」
「ならいいや」
あっさり引き受けてくれた旦那に苦笑しながら居酒屋の中に入っていった。
「で、依頼って何?」
「・・・ちょっとした悩み相談なんですが」
僕は織江さんのことを話した、隊士がからかってくること、織江さんが好きだということ
でも、織江さんは僕なんて選ばないということ。
一通り言い終えると、旦那が口を開いた。
「おまえさぁ、相手の気持ち考えてる?」
悩み相談の回答には程遠いその一言に考えあぐねていると
「織江って子はお前に恋愛感情抱いてるかも知れねぇじゃん」
「え?!」
唐突な言葉に僕は言葉を失った。
「恋愛ってもんは、一人では成り立たないだろ。2人いて始めて成立するんだから。相手の気持ちも考えないと。」
いよいよもってわけがわからない。混乱している上にお酒を飲んでいる。理解に乏しくなるのは当然。
それを察してくれたのか旦那は詳しく説明しだした。
「恋愛は自分と自分が思う相手2人いなければ成り立たないだろう。1人の恋愛なんてただのナルシストだよ。
自分がいて相手がいて始めて成立するんだよ。その相手がどこを向いていようと、お前からしてみたらそのことお前の話なんだよ。
そいつにどういう風に接してるか、考えてみろ。自分だったらどう思うか考えてみろ。
今の話からすると、作り笑いで、楽しいような楽しくないような微妙な顔して話してるんだろう。」
考えてみる、自分が織江さんと話しているところを。確かに緊張しすぎて挙動不審かもしれない。
織江さんが見たら自分のことどう思うのだろう・・・。ちょっとキモいかな・・・。
「そしてな、ほかのやつからそういう話が出るくらいなんだから、その子もまんざらじゃないんだろう。
お前に好かれるのが。もしくは、向こうがお前さんに気があって、誰かにばれて後押ししてもらってるんじゃないのか。」
沖田君なんか察しよさそうだしなぁ。というと、旦那はあごをさすった。
「そ、そんなこと・・・」
「ないこともないだろ。思い返してみろ。その子はお前にどう接していたんだよ」
笑顔の織江さん。織江さんはいつも優しかった。自然体で笑顔で、あったかい人だ。でも・・・。
「旦那、うちには土方さんと沖田さんという2大美形がいるんですよ。俺みたいな地味男、あいてにしませんて。」
「本当にそんなこと思ってんのか」
冷静な旦那に少々ひるむものの、
「思いますよ。沖田さんだって、土方さんだって、女の子には不自由しないくらいよってきますよ。あ、沖田さんはチャイナさん一筋ですから相手にしてませんけど」
「お前にわからない魅力があるんだよ。その子はそれがわかってるんだよ。誰にだって魅力はあるんだよ。自覚があるかないかだけで。お前みたいなやつは特にそういうことを見逃すもんなぁ。」
「俺の魅力・・・」
土方さんみたいに切れ物でもなければ沖田さんのような強さもない。近藤さんみたいな底抜けの明るさもない・・・。僕にはなにも・・・。
「ともかく、はっきりいえるのはお前独りよがりだよ。相手のことを考えてないよ。それだけはよくわかった。」
あとは、と旦那は続けると
「愛情をこめて話しかけると好意は自然とわくもんだよ。お前のところのゴリラみたいになれとはいわねぇが、もっと自信をもて。」
好きとか嫌いって言わないで、惚れさせる位の意気込みがないとな。と続けた。
妙に最後の一言が自分の胸に刺さった。そうかも、そうなんだろうなぁと思った。
「ありがとうございます旦那。俺がんばってみます」
「お、いい顔してるねぇジミー」
旦那はにかっと笑うと酒をあおった。おれも、飲み始めた。
お勘定を済ませると旦那に向いて深々とお辞儀をした。
「ありがとうございました。旦那。なんとなく吹っ切れた気がします。」
「そーかよかったな。付き合ったら顔見せろよ」
「はいよ!これからもよかったら相談に乗ってくださいね。」
「薄っぺらいおれでいいならな。」
というと、へらりと笑って、帰っていった。もう一度お礼を言うと右腕を上げ手をひらひらさせてくれた。
屯所に戻る道すがら思った。今は地味でとりえのない自分だけど、振り向かせる努力をしようと。
どうせと諦めてしまったら、きっと何もできないんだろうと。
すぐに好きだといえなくても、もうちょっと自分に自信がもてたら軽く好意があることを伝えてもいい。
そうなれるように、今はがんばろう。振り向いてくれることを信じて。


えー、軽く実話交じりです。色恋沙汰ではなくてね。こういう話が実際ありました。
で、本当に、好きだったらこの話どうなるんだろう、と思ったのです。で、自分ではなく山崎に出てもらいました。
織江の名前は、これを書いてるときにオリエンタルラジオの漫才がかかっていたので、それで、つけました。
ええ、安易ですよ。(恥ずかしくて開き直り)

この話はこういう明るい終わりにする積もりなかったのですが、銀さんに説教されて話が動きました。
全然こういう風に展開するとは思いもよらなかったです。
ちなみに、むらさき系なのはむらさきの石アメジストが恋をつかさどっているのでむらさきにしてみました。
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