ほんとはね

    お妙奪還の日々も過ぎまた江戸には平和が戻った。
    「ふぅ・・・」
    お茶を飲み一息つくと
    「おや、お妙さん溜息ですか?幸せが逃げますよ。笑って笑って」
    といつものように、近藤が励ます。
    「どっからわいてでたぁ!!」と肘うちが炸裂。
    「いや、俺はお妙さんがいるところ必ず現れます!!」
    「その妙な自信がいらんのじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
    いつものように、近藤をぼこぼこにするお妙。

    でも、と、ぼこぼこにしながらお妙は思った。
    他の人にはここまでしないのに近藤には力加減が一切ない。
    倒しても尚立ち上がる体力と精神力とお妙への恋心がものを云うのだろうが、
    それにしても、やり放題といっても過言ではない。
    ふと、手を止めると、
    「近藤さん、局長の仕事はどうしたのですか。きちんと仕事してから、会いにきてくださいな。」
    お妙本人もどうしてこんなことをいったのかわけがわからない。
    一つわかるのは、九兵衛のところへ取り戻しに着てもらって以来、近藤には何か特別の感情が
    湧き上がっている事だった。
    「!!・・・お妙さん」
    近藤も、この言葉には驚いたらしく、目を見開いて黙っている。
    「大丈夫です!!今日は非番ですから。」
    にかっと笑う近藤の白い歯がまぶしかった。
    「それにしてもお妙さんが、心配してくれるなんて今日はなんていい日なんだ!」
    そして、またさわやかに笑う。
    その笑顔を見て、お妙はちょっとドキッとしてしまった。
    「こうやって、お妙さんと話してると日常に戻ったって気になりますねぇ」
    近藤は嬉しそうだった。
    「こんなにあなたを傷つける女のどこがいいんですか?」
    つい、気になってしまう。
    「これは、お妙さんの愛情表現だと思ってますから。ちょっと感情表現が不器用なだけですよね。
    俺、知ってますから」
    それに、と近藤は付け加えた。
    「ケツ毛ごと、愛してくれる分、俺もお妙さんのすべてを愛してますから」
    近藤は、まっすぐだ。そして、どんな事でも受け入れてしまう。
    そのまっすぐな気持ちと瞳と懐の深さに、きっと隊士も絶対の信頼を寄せているのだろう。
    「・・・がとう」
    「??」
    「ありがとう、近藤さん・・・」
    お妙は泣いていた。いつも気丈に笑っているのに、涙を流していた。
    近藤は、考えるよりも先に体が動いて、お妙を抱きしめていた。
    「たまには、素直になるのもいいんじゃないですか。泣きたい時は泣くと良い。
    俺の胸はお妙さん専用です。いつでも頼ってください」
    お妙は泣きながら
    「ただいま。近藤さん・・・」
    「お帰り、お妙さん」
    お妙はいつも思っていた。両親を早くから亡くし、自分には自分より弱い弟がいる。
    弟をかばう分自分が強くあらねばと、弟を守らねばとずっと思っていた。
    誰にも頼らず、盾になって、ずっと気丈に笑ってた。
    だから、近藤の大きさに惹かれそうになるのだ。否惹かれていたのだ。
    ずっと、心の奥底にしまっていた感情、でも、今回の件で、それが表面に露見してしまった。
    気付いてしまった気持ちを、抑えるのは気付かないでいたときよりもずっと辛い。
    ひとしきり、落ち着くと、離れたのは近藤の方だった。
    「すいません」
    と、真っ赤な顔して、謝ると
    「考えるよりも先に動いてしまいました。別にやらしい事なんか考えてませんから」
    と、慌てるように言い訳をしていた。
    それを見てお妙はくすくす笑った。
    きっと、女性に対してどうしていいのかわからないんでしょうね。刀だけの人たちだものね。
    そう思うと、お妙は近藤の胸に頬を寄せた。
    「おたっ!!お妙さん、どうしたんですか!!」
    驚いた近藤が声を荒げる。
    「たまには素直になれって言ったのは誰です?こんなに素直になる事きっとないですよ、当分」
    しばらく、二人はそのままでいた。近藤の心臓が早鐘を打つようになっている。
    この人は私の傍で生きている。
    「私ね・・・」口を開いたのはお妙。
    「両親を早いうちに亡くしたから、伴侶にする人には私よりも1日でいいから
    生きてくれる人がいいんです。」
    近藤は、押し黙っている。
    「近藤さん、あなたは真選組の局長。命の危険な仕事に出向く事も多いでしょう。
    だから、私あなたを拒んでいたんです。私を残して、いってしまいそうで・・・」
    「いきません!!」
    近藤が叫ぶ。
    「あなたを残して、あなたをおいて、この近藤勲、絶対に死にません。」
    お妙を強く抱きしめる。
    「俺は、あなたのためなら死ねるけど、あなたを残して、死ぬ事は絶対にしません。誓います」
    「誓わなくいいです。あなたの仕事は危険な仕事。できない約束はしないでください」
    「では、俺は、死んだとしてもあなたのそばにいて、あなたが死ぬまで、守ります」
    それくらい、俺はお妙さんが好きです。と、高らかに宣言する。
    「・・・私も」
    お妙は、意を決したように、一息つくと
    「私も、好き、です」
    胸に顔をうずめているので、表情は見えないが真っ赤になった耳を見るとそれが
    現実という事に気付かされる。
    近藤は、その言葉に一瞬固まると
    「おたえすわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
    歓喜の涙を流しお妙を強く強く抱きしめた。そして、しばらくの間二人抱き合ったまま無言だった。
    どのくらい経ったろう、二人の体がちょっと離れた。
    「それじゃ、いつ頃祝言を挙げましょうか」
    近藤はぜんは急げとばかりに話しを進めようとしている
    「ま、待ってください」
    お妙は焦る
    「だって、お互いの気持ちもわかったんですから。後は祝言を・・・」
    という近藤を遮って、お妙は
    「あたし、父上が死んだ時に誓ったの新ちゃんが幸せになるまで、私が守ると。
    だから、もう少し待ってくれませんか?」
    だめですか?上目遣いで近藤を見る
    「だめじゃないです。あなたの信念があるのなら俺はとめません。いつまででも待ちます」
    「おばさんになっても?」
    「俺はすでにおじさんですから。それにあなたみたいな綺麗な人はおばさんになりません」
    お妙はふふっと笑うと
    「新ちゃんもそろそろ幸せになれると思うんです。だって、新ちゃんの傍にはいつもあの人がいるから」
    「男同士だろうときっと二人は幸せになるんでしょうね」
    「いつか、万事屋に住み込むって言うと思うの」
    「そうしたら、俺がこの道場に住み込みます。あなたに寂しい思いはさせません」
    近藤は真っ赤な顔をしていった。
    「ありがとう、近藤さん」
    お妙は近藤に笑いかける。そして、ちょっと厳しい顔をして、
    「近藤さん。真選組の仕事がんばってくださいね。サボってここに来てはだめですよ。
    仕事を済ませて逢いにきてください」
    「もっ、もちろんです!!仕事をがんばった暁にはお妙さんの所へ胸張って逢いに来ます」
    今日は非番です!!と、付け加えた。
    「さっきもしましたね、こんな会話。」
    「そうでしたねぇ」
    「近藤さん、私、幸せです」
    「俺もです。今日は世界で一番幸せです。」
    もちろん、これからずっとですよ、と付け加える。

    父上、この人でいいんですよね。あなたにも見せたかった、私と新ちゃんが選んだ人を。
    新ちゃんが選んだ人は、常識からはずれてるかもしれませんが、きっと喜んでくれますよね。
    今度、近藤さんの非番の時にお墓参りにいこう。お妙はそう思った。


     という事で、この間で終わった柳生編でちょっと思ったことを書いてみました。
     お妙さんが近藤さんと叫んだ事、土方さんがお妙さんの事を「惚れてる」といったところに触発されてます。
     近藤さんには幸せになってほしいんですよねぇ。自分の幸せはいつも後回し的なところがあるきがして、
     しかも惚れた女にはぼこぼこにされてる。書けてよかった。この話。         11/17

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