真冬の雨

われながらしくじったと思った。影から出てくるもう一人に気付かなかった自分に。
思った以上の深手を負い雨の中倒れる。騒ぎを聞きつけたのだろう、副長が駆けつける。
「山崎ぃーー!!しっかりしろ!!」副長の叫びを聞きながら意識に突き放された。

あれは・・・、俺だ。
小さい頃の俺がいた。真選組に拾われて、尚、そこを何度も逃げた。
夜になると、外に出なくてはいけない衝動に駆られる。ここにいれないと感じ、逃げ出した。
そのたびに、土方さんが俺を捕まえては柱にくくりつけられ、説教される。
「ったく、どうしてこうも逃げたがるんだか・・・」頭をかきながら土方さんは俺を見る。
オレは憮然として、説教も聞かずにあばれる。
日頃から土方さんは俺に優しかった。鬼の副長が俺には優しい。でも、その優しさを信じる事もできずに、
何も信じられずにいた。愛情に飢えているくせに愛情が怖くて、いつも逃げていた。
自分の場所、というものがまだよくわからないまま、確かめるために逃げたのかもしれない。
ある夜、いつもの様に屯所から逃げ出したら、運悪く絡まれてしまった。幸い屯所で修業は受けていたから
倒したものの今の自分くらいの深手を負った。雨の中、自分の血が雨に溶けていくのをただただぼーっと見つめていた。このまま眠れたらどんなに楽だろう。だんだん当たる雨が強くなる。意識が遠のく、いい事もこれといって
やる事も何もないもんだなぁ・・・。薄れる意識の傍らに「さがるーーー!!!」
あぁ、土方さんの声だ。あの時も土方さんが来た。「聞こえてるのか!!さがる!!」
「聞こえてますよ、土方さん」冷静に言い放ったものの、そこで、意識に突き放される。
青白い光に意識を引き戻されると、そこは病院のベットの上だった。
「さがる!!気がついたんだな。!!」顔を向けると、ひどくやつれた土方さんの顔。
「俺、また生き延びちゃったんですね。」悲しく笑うと、涙が出てきた。
「さがる・・・?」土方さんは俺の一言に呆然としている。
「土方さん。もう、死なせてくれませんか。俺、もう疲れました。すべてに疲れました。」
怒られるだろうか、真選組から追い出されるだろうか。それならそれでいい。いっそ追い出してくれたら
楽になれるのかもしれない。土方さんは、何も言い出さない。手に水が落ちる。
土方さんが、涙していたのだ。
「土方さん・・・?」「・・・頼むから」土方さんは呟くと。俺を見た。
「頼むから、そんな事いわないでくれ。オレはお前が大事だ。」
どうして、俺が大事ってどういうこと。混乱した俺は土方さんを見た。
「お前の昔なんてしらねぇ。でもな、退。子供のお前が幸せじゃなかったんなら、今のお前に幸せになる
権利がめぐってきてると思ってる。真選組はお前が大事だ。真選組がお前の場所、というのは嫌か?」
俺は、力なく首を横に振る。そのときにわかった。誰かにここにいても良いといってほしかったのだと。
自分の場所を与えてほしくて、わざと逃げ回っていたのだと。
土方さんは話を続けた
「お前はいつも儚げで、空ばかり見ては逃げ回っていた。いつかこうなるんじゃないかと思っていつも心配してた」
俺を、心配?そんなことしなくても良いのに。俺一人くらい死んだって。
「いつでも屯所から出してやるから、いなくなるな。そして・・・、死にたいなんていうな。お前が死んだら後を追うやつがいるんだぞ」俺が、後を追ってやる、だから・・・生きろ。土方さんは俺に背を向けて言った。
そのときに思った。自分はこんなにも思われてるんだと、どうせ死ぬならこの人のために立派に死のうと。

「・・・ざき!!山崎!!気ぃついたか!!」
気がつくと、病院の一室。やつれた土方さん。
「俺、まだ、生きてるんですね。」
「あったりめーだバカ野郎!!」
こんな目つきの悪い天使がいるわけないか。と、ちょっと笑った。
「・・・どうした?」土方さんは俺を心配そうに見る。
「ちょっと、昔の自分に会ってきました。」どうしてあの頃あんなに尖っていたんだろう。
「そうか・・・」きっと、同じことを思っているのだろう。
あの後、俺に監察の仕事をくれたのは土方さんだった。
「もちろん、修業を積んでからだぞ。まだまだ、監察の仕事をするのは先になるが」と念を押された。
俺の逃げる時の気配の消し方が監察にぴったりだそうだ。
少し前から、俺にこの仕事を当てる事を局長と二人考えてくれていたそうで。
それから、俺は逃げる事もなくなり、現在に至る。
「土方さんの役に立てるまで、俺は死ねませんから」俺は笑う。
「じゃぁ、あと、30年はがんばってもらわねぇとな。」
「長っ!!・・・っ痛」笑った拍子に傷がいたんだ。
「大丈夫か?!」「平気ですよ」
土方さんは俺の頭を撫でると
「今は、傷を早く治すことだけを考えろよ。もう少し寝ろ」と優しい声で言ってくれた。
「はいよっ。あの、土方さん・・・」「起きるまでそばにいてやるから」
にくいくらいに、俺の言いたい事を当てる土方さん。
「おやすみなさい」
窓を叩く雨が強くなっているようだ、その音を聞きながら俺は眠る・・・。暖かさに触れながら。


ヒレンジャーのヒレンジャーたるゆえんです。
どうしても土方さんを疲労させてしまうんです。好きなのに泣かします、散々泣かします。
しかし、これは最後と最後前が苦労しました。
監察の仕事をさせようと思うっていうくだりは出すつもりだったのですが、それまでをどうしよう、と。
で、過去の自分に会いに行くという方法を取りました。
本当に、この頃は土方さんを何かと泣かしてました。
そして、山崎は絶対自分の気持ちが自分でもわかってないという設定になってます。
いつも土方さんの一言にはっとさせられ自分の欲しいものが見えてくる。
この頃の私にとって、山崎とはそういう人でした。
これと闇雨とそのことのバットエンド、全部同時期に考えてます。
これも曲のイメージから話し作りました。
この曲、このバンドの曲の中で、一番好きで、今でも聞きたい衝動に駆られて、これを書いてる最中に
CD買いました。今でも、廃れない、いいものはいいですよ。         11/13

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