その力が世界をも動かす


あるとき近藤さんは女をかけて銀髪の侍と決闘した。
いかさまを使われたものの、近藤さんは負けた。
それなのに、同じ女を追いかけてばかりいる、名をお妙と言ったか。
一時期は仕事もかまけて追い回していたが、総悟がどういうルートでかは知らないが
「あたしのためにお仕事がんばってくださいね、近藤さん」
という声の入ったからくりを近藤さんに渡して以来、それもなくなった。
でも、仕事が終わったり非番だったりすると、一目散に女のところへ行って、
傷だらけになって帰ってくる。
それでも、近藤さんは
「今日は、お妙さんの蹴りがソフトだったんだよ。俺のこと気遣ってくれてるなぁ」とか、
「今日は、パンチがいつもよりも軽かったんだよな。照れてるのかなあ」とか
都合のよすぎる解釈しかしない。困ったもんだ。
あるとき俺は聞いてみた、
「近藤さん、どうしてあんな暴力女のところへ出向くんだよ」
「トシ!お妙さんの事をそんな風に言うな。あの人は照れ屋なんだよ。愛情の裏返しって言う言葉を知らんのか」
「知ってても今言う言葉じゃねぇだろ」
俺は煙草の煙を外へ吐き出す。
「真選組の局長ともあろう人が女にぼこぼこにされてるなんて、隊士に示しがつかないだろう」
と苦い顔をして言うと
「いや、隊士はこんな俺を応援してくれるぞ。」
と笑顔で返してきた。俺は額に手を当て溜息をついた。
「トシ、恋はいいぞ。なんだかなぁ、お妙さんに会えるだけで俺は救われるんだよ」
「あの暴力にかぁ」俺はあきれたように返すと
「近藤さん、あんたにだって、あんたにほれてる取り巻きがいるんだ。選り取りみどりじゃねぇか。何で好き好んでのされに行くんだよ」
と続けた。近藤さんは、それは違うぞというと
「俺に取り巻きなんておらんよ。お前と総悟という二枚看板がうちにはいるからな」と高らかに笑った。そしてと続けると
「俺は、刀に明け暮れてきた。色恋沙汰なんてどうでもよかった。そんな俺が始めて心の底からいとしい女性を見つけたんだ。衝撃的だったよ。隕石が頭に直撃したようだった。」
俺は、近藤さんの話を黙って聞いていた。
「俺たちは、危険な仕事をしている。時には刀で斬らないと自分の命すら危ないときがある。天人だったりえいりあんだったり」
「まあな」俺は、次の煙草に火をつける、近藤さんの表情はいつになく真剣だ。
「そして、攘夷志士。俺たちと同じ人間だ。本当はどんなに悪いやつでも人同士で斬りあいなんておかしいと思うんだ。お前だってあるだろう。人を斬る時の斬った後の気が狂いそうな感覚」
「ああ」
「そういうときにだな。言葉なんて交わせなくても、目線があわなくても、お妙さんの姿を見ると、憑物が落ちたようになるんだよ。この人は生きてる。ってな。」
「どういう関係があるんだよ」
「俺が、志士を切らなかったら次の日その志士がお妙さんを斬るかもしれん。なにがあるかわからない、追い詰められた志士が人質を殺すなんてよくある話だ。」
俺が前に山崎に話した話と似ている。大事なものを守るために刀を使うことをためらったあいつに言った言葉。
「それを未然に防いだんだって思えば、俺の気持ちは落ち着く。お妙さんに逢うだけで救われるんだよ、俺は」
わかるだろというと白い歯を見せてにかっと笑った。
「ああ、わかったよ。でも、もう少しきちんと受身取るなり防御服着込んだりしろよ。やられ放題じゃないか」
「大丈夫、骨まで行かない傷しか作らんから彼女は。加減を知ってるんだよ」
さすが、道場の娘だよ。というと、その女を思い出したように晴れやかな笑顔を作った。
確かに、ここまですがすがしく言われてしまうと、ほかの隊士だって応援せざるをえないか。
ふふっと笑うと
「俺も応援するよ。近藤さん」
「おお、トシも恋の素晴らしさわかってくれたか。で、早速今日なんだが早上がりしても」
『あたしのためにお仕事がんばってくださいね。近藤さん』
「はい!!あなたのためにこの近藤勲今日もがんばります」
というと、ダッシュで任務に戻ってしまった。
残された俺は、からくりを見ながら
「案外使えるな・・・」
と呟くと、恋ってもんは時にその人の世界を動かすものになるんだと改めて感じた。

「俺のところにも、そんなことが起こる日が来るのかねぇ」


からくりは沖田が神楽を食事で釣ってお妙さんに頼んでもらってゲットしました。
なんだかんだいっても私の中では神楽と沖田は仲良しです。

近藤さんの一途な思い、いいですよね。まぁ、やりすぎではありますが。
仕事だって、あの人に通じてる、そういう近藤さんを書きたかったというか・・・。
軸は、会うだけで救われるという一言です。
大好きなイラストレーターさんのイラストにちょっとついてる言葉でした。
本当は、土方が銀時を見て、と見せ掛けて、銀時もそう思ってる話にしようかと思ったら
異常に難しかったので、辞めました。
でも、真選組と万事屋でその話はできそうなので、今度作ってUPします。
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